CX(顧客体験)という言葉がファッション小売りからも聞かれるようになった。とはいえ、それは現場からであり、経営層はDX(デジタルトランスフォーメーション)が優先で、CXへの関心は薄いように映る。DXも当然大切だが過大な投資を伴うケースも多く、中小の事業者にはコストが重い。一方のCXは人の力で競合相手と差別化する戦略だから、簡単ではないがDXよりはコスト負担は軽い。早い時期からNPS(ネットプロモータースコア=別項参照)に注目し、ユナイテッドアローズやビームスへの導入の橋渡しをしたトータルエンゲージメントグループ(東京)の池田順一さんと、良品計画で店舗・商品開発や海外事業を手掛けたクワオア(東京)の高橋幸平さんに、「なぜCXが大事なのか」について改めて議論してもらった。
(聞き手=永松浩介)
もうけるための差別化戦略
滞在時間に差
――なぜCXが大事なのですか。
池田 企業にとって売り上げは、商品単価×客数。自分自身もプロモーション費を使い、新規も含めた客数を上げるのを仕事にしてきました。しかし、これでは消耗戦。コストを増やさなければ売り上げを作れないわけですから早晩限界が訪れる。逆にコストをかけずCXの向上で売れ、LTV(顧客生涯価値)も高まれば経営も安定します。
10年ごろ、従来の販促費をかけるやり方に疑問を持ち、仮説を立ててアメリカの事例をみました。そこには既にNPSなるものがあり、成功事例もたくさん出ていたので、日本で広めることにしました。その後、導入は広がりましたが、目的は「クレームコストを下げる」「顧客の囲い込み」などアメリカ企業の活用法とは異なっていました。今もその点ではさほど変わっていません。
高橋 幸か不幸かコロナ下でECが大きく伸びました。そこで気付いたのは実店舗の価値ではないでしょうか。顧客体験といった時に、その構成要素には情報、商品、環境、スタッフがあります。ECの場合は、情報は無限にあるし、商品もどこが一番安いとかがすぐに分かります。ECの良い面です。サイトだと何クリックで目的の商品にたどり着けるかとかサイトが重くないかとかですし、実店舗の環境も好みもあるから一概に良しあしは言えません。スタッフに関しては実店舗の方にまだ分がある。リアルタイムで得られる体験はまだECには置き換えられないでしょう。
ECサイトで買い物をすると、その個数は限りなく1に近い。実店舗で言うセット買いみたいなことはそうそう起きません。目的買いが多いですから、余計な物を買うことはない。一方、実店舗であれば白シャツを買いに行った時にパンツも欲しくなるかもしれないし、青いシャツも買ってしまうかもしれない。将来は分かりませんが今時点ではECでは起きづらいでしょう。
――CXが改善しやすいのはフィジカル(リアル)の店舗ということですね。
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