ジーンズを担当して20年の繊研新聞記者が、方々で仕入れてきたジーンズ&デニムのマニアック過ぎる話を、出し惜しみせず書き連ねます。今回は、90年代のビンテージブームを支えた「偏執的」とも言えるこだわりの数々―――。
■ベテラン記者によるジーンズの深いぃ話-1
■ベテラン記者によるジーンズの深いぃ話-2
■ベテラン記者によるジーンズの深いぃ話-3
4、どこまでも忠実に再現~ビンテージの話~
90年代には昔のジーンズの雰囲気を再現したビンテージジーンズのブームがあった。当時はオリゾンティが扱っていた「ドゥニーム」などのブランドがブームとなり、セルビッジと呼ばれる赤耳付きのデニムを使ったジーンズが人気を集めた。本物の年代物のジーンズを探してきて解体し、昔の生地の雰囲気や付属まで忠実に再現しようというメーカーがたくさんあった。ただ、こうした「昔のジーンズを忠実に再現する」という発想は日本人だけに特有のもののようで、欧米ブランドでそんな話は聞いたことがない。
まず素材。今は紡績などの技術が進んでムラのない均一できれいな糸ができる。ジーンズでよく、たておち(織物のたて筋)が出るのがいいといわれるが、昔のジーンズでたておちが出るのは紡績技術が低く糸質が悪いため。今は技術が進歩しているため、このたておち感を再現するのが逆に難しい。むら糸を使ってもなかなか再現できないため、紡績会社の協力を得て、わざと太さが不均一な糸を開発するジーンズメーカーも多かった。
糸染めも季節によってインディゴ染料の染着度が異なる。さらに時間が経ったときにインディゴの色がどう変化していくかまでを昔のまま表現しないといけない。こうしたメーカーの努力には本当に脱帽する。
付属にもこだわる。あるファスナーメーカーを取材したとき、「ジーンズメーカーから昔のファスナーの音を再現して欲しいという依頼を受けている」という話を聞いた。依頼したジーンズメーカーに尋ねると、昔のジーンズに使われていたファスナーのスライダー(引き手)を引っ張ったときの音を再現して欲しいのだという。そこまでこだわるのかと関心したことがある。
ベルトループはステッチとステッチの間の部分をかまぼこ状にふくらませるのがポイント。革パッチははき込むとアメ色に変わっていくものがいい。ステッチもはき込むと生地と一緒に色合いが変化しないといけない。ピスネームと呼ばれる、後ろポケットの横に挟み込む小さな布片は、時間が経つとクルリと丸まるようにレーヨン素材を使う・・・。こだわる箇所は数え切れないほどある。
ただ、昔の金属ボタンは金型の精度があまく、現在の検査基準でみると不合格品というのも多い。そういう面まで含めて、昔のものをどこまで徹底して再現するのか。ここがビンテージの難しいところだ。
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