ここ十数年でファッションブランドのEC運用が、企業の取り組みとして一般的になりました。消費者の購買行動が変化し、情報の取得は雑誌媒体だけでなく、世代によってはSNSが主流。ショールーミング的に店頭には行くが、そこでクロージングされず自宅に帰ってからECで商品を購入する。そのような時代を我々は生きています。
これらの行動パターンは、まことしやかにウェブ系のメディアで報道され、検証すらしていない方々も当然のように受け入れていることでしょう。しかし、中には「そうとも限らない」事例があり、意外と現場で理解されていないこともあります。
販管費は低い?
例えば、「ECは店頭より販売管理費が低い」という説を聞いたことは無いでしょうか? これは半分当たっていますが、半分ハズレでもあります。
大手アパレルのような、過去から多店舗展開しているブランドを保有する場合、既に一定のブランド認知があり、ECサイトをオープンするだけでそれなりの収益を見込めるでしょう。グーグル検索でブランド名を打ち込む人もいれば、SNSアカウントをフォローし、その発信がきっかけで購買に至る、などの行動パターンです。
では、それらを取り切ってしまった後はどうでしょうか? 企業が成長を望むならば、新規顧客獲得を求められます。結果、ウェブ広告などを配信し、中にはインフルエンサーと協業する手法も使われるでしょう。その場合、広告宣伝費(販売管理費に計上されます)は高騰。損益計算書を見ると、営業利益が大きく目減りしていた…という事例は特に珍しくありません。
新規獲得に関しては、ECは意外と店頭より機能しづらく、コストはかさみやすい。商品を実際に手にとって見られないのですから、当然と言えば当然なのですが、自分が普段から購入しない物に関しては自分事として捉えられない人が多いのもまた事実です。
EC草創期にECの販管費が低かったことの要因の一つは、新規獲得コストが必要なかったから、というのが一つの理由です。もちろん、販売員の人件費・ショップの地代家賃など、個別に見れば削れる部分はありますので運用次第ではあるのですが。
王道を疑え
このような話は、枚挙にいとまがなく、メディアを見て「通例」と思われていることが、現場ではそうでも無いことが多分にあります。
本連載ではそのような「落とし穴」について、筆者の知る限りのものを書き連ねていければと思います。皆様のEC運用の一助になれば幸いです。
(ECディレクター・深地雅也)
【連載】「EC」常識の非常識