EUのサステイナビリティー規制緩和策 鍵を握るのはトレーサビリティー

2025/12/18 06:26 更新NEW!


 【パリ=松井孝予通信員】EU(欧州連合)で企業の規制負担を軽減するオムニバス法が一段と進んでいる。欧州委員会はこのほど、環境アセスメントや許認可手続きを横断的に見直す第8弾の緩和策を公表した。

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 建設・操業許可の迅速化を目的に各加盟国にワンストップ窓口を設け、必要な環境評価(水資源、生物多様性など)を一元化して審査期間を短縮する。併せて産業排出指令、廃棄物輸送規則、電池規則などを改正し、農業やEバイク関連、域内外の廃棄物処理事業者の負担軽減を図る。委員会は緩和策による年間コスト削減効果を10億ユーロ規模と見積もる。

 背景には、米中との競争力格差や投資停滞への危機感がある。再生可能エネルギーやインフラ整備の遅れにつながっていた許認可の長期化にメスを入れ、域内の製造基盤を立て直す狙いだ。

 11月には欧州議会がCSRD(企業サステイナビリティー報告指令)とCSDDD(企業サステイナビリティーデューデリジェンス指令)の適用企業の規模要件を大幅に引き上げ、対象を実質的に絞り込んだ。委員会の簡素化策と議会側の修正が重なり、規制軽減の動きが複数ルートで進み始めている。

 日本の繊維、ファッション・スポーツ企業に直接的な義務が課されるケースは限られる。今回のオムニバス法は域内の許認可や特定産業への緩和が中心で、CSDDDの基準引き上げにより日本企業の多くが法的義務の対象外となる。

 一方、欧州大手は依然としてデューデリジェンス義務を負い、サプライチェーン全体の環境・人権リスク把握が必要なため、日本の素材メーカーやOEM(相手先ブランドによる生産)にも実務的な情報開示が求められる。このため、むしろ欧州市場側の要請は強まっている。

 フランスでは繊維製品の環境負荷を可視化する環境スコア表示(エコスコアラベリング)が段階的に始まり、炭素排出量、水使用、化学物質、マイクロプラスチック排出などのデータが求められる。

 EUでも製品環境フットプリント(PEF)の議論が進み、域内で販売される繊維製品には一定の環境データ提示が不可欠になりつつある。規制簡素化は日本企業に形式的な負担軽減をもたらす一方、実務ではトレーサビリティー(履歴管理)対応は避けて通れない。

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