服飾系専門学校には、専門分野に特化した教育内容にひかれ、目的意識の高い学生が集まっている。高校から服飾を専攻した人、海外からの留学生、社会人経験者など多様な学生が、知識や技術の修得、課題の制作に励んでいる。学内外のコンテストに意欲的に挑戦したり、学内イベントでまとめ役を務めたり、学外で独自ブランドを販売したり、主体的に学び、活動の場を広げる精力的な学生も多い。自身の夢の実現や可能性を広げるために頑張っていて、各校が期待をかける専門学校生の思いや学生生活の一端を紹介する。
想像力とドローイング力で
上田安子服飾専門学校 ファッションクリエイター学科ファッションクリエイターマスターズコース3年 萩原奈音さん

「想像することが好き。夢やファンタジーをよく題材にする」と萩原さん。ふだんは散歩をしながらイメージを膨らませ、「そのアイデアをスマートフォンにかき起こしている」と言う。
出身は鳥取県。絵を描いたり、粘土で遊ぶうちにファッションに興味を抱くようになった。高校生の時に家政科で服飾を学び、上田安子服飾専門学校に入学。「課題が多いと聞き、元々は苦手だったが、これを機に自分を変えよう」と飛び込んだ。
得意分野はドローイング。1年次から全国のファッションデザインコンテストで受賞。授業の中でペアを組み、相手のためにルックブックを描く機会があり、広い視野を持つことの大切さも学んだ。「学校で様々な個性を持つ人と出会い、それも良い刺激になった」
2年次に作品が選ばれ、上級生とともに「上田学園デザインコレクション」に参加したことも「貴重な経験になった」。パターンが苦手だったが、努力を積み重ね、「今では楽しく作業できるようになった」と笑顔を見せる。
25年6月に実施された「第155回上田学園コレクションプレタポルテ2025」では、自身がグループのリーダーを務め、「Fovea」(フォビア)を制作。メンバーの顔写真をAI(人工知能)で合成し、モザイクアートにすることに挑み、それをサテン地にデジタルプリントして活用した。
いま取り組んでいるコンテストが落ち着いたら、就職活動を始める予定だ。「大手よりも、自分が何をやっているのか、はっきり分かるところで働きたい」。将来の目標は「ファッションとアートを融合させるようなことがしてみたい」と話す。
自分なりの感性大事に
大阪文化服装学院 スーパーデザイナー学科4年 立石琴那さん

幼少期は着せ替え人形などで遊ぶのが好きで、ファッションにも興味を持つようになった。家庭科学科のある地元の高校に進学し、服作りを学び始めた。
「最初はスタイリストになりたかった」が、高校2年の時に大阪文化服装学院のオープンキャンパスで、スーパーデザイナー学科を知って興味が湧いた。「やっぱりデザイナーになりたい」とAO入試で入学した。
「発想力に自信がなかった」が、デザインの段階を踏んでいくことを学び、1年生の時に服をデザインする不安は無くなった。「負けず嫌い」で、たくさんの課題も乗り越えてきた。
3年次にマイブランドの「コトナタテイシ」を立ち上げた。「子供心を忘れない大人のための子供服」をコンセプトに、ポップな要素を盛り込んだ服作りをしている。食べ物をファジーにちりばめたグラフィックを用いたツーウェートップなどがある。「自分が見たもの、感じたものを大事にしたい」と、普段から写真に収め、クリエイションに生かしている。
立石さんが大きく飛躍し始めた転機は、合同展示会「ニューエナジー」の出展ブランドに、学内で上級生とともに選ばれたことだ。「先輩のアドバイスもあって、以前より積極的に話して自分をアピールするようになった」
今年4月には三越伊勢丹のアップサイクルプロジェクト「ピースdeミライ」に参加。同時に、伊勢丹新宿本店の「リ・スタイルプラス」が取り上げたい学生ブランドに選ばれて期間限定店も開いた。
卒業後は、東京のアパレル企業への就職を考えている。「夢として、いつかは自分のブランドで活動もできれば」と笑顔を見せる。
アクセサリーで心をほぐしたい
ファッション文化専門学校DOREME クリエーター学科アーツ&クラフト専攻3年 佐藤紫音さん

小学生のころはビーズや輪ゴムを編む玩具でのアクセサリー作り、中学時代はレジン樹脂のアクセサリー作りにはまっていた。高校では美術デザイン科で、絵画や石膏(せっこう)、七宝など幅広く物作りを学び、「現役で活躍するクリエイターの先生から学びたい」とアーツ&クラフト専攻に入った。
1年の前期は、ファッションの基礎知識やクラフトに必要な基礎技術を習得。何度も練習して夏休み明けには糸ノコで金属を切り抜き繊細な表現ができるようになり、後期からアクセサリーと革のオリジナル作品の制作を開始。進級制作では、ひっくり返ったアヒルのシルバーリングを作った。「表現の幅が広く、デザインで選んでもらえるシルバーアクセサリーが好き。動物をモチーフに、精巧だけど造形や表情が面白い作品を作りたい」と方向性が定まり、転機になった作品だ。
2年次の卒業制作はチョウをモチーフに、シルバーを使って指輪やペンダントなどジュエリー9点と、革ベルトで構成する大作を作った。チョウの羽根の模様を手で堀り、ジルコニアを石留めし、羽根が動く仕掛けやベルトのバックルで和彫りに挑戦。学内で卒業制作の最優秀賞に選ばれた。
同じ学科からは一人だけクリエーター学科に進み、ブランド「もふ」を立ち上げた。創造力とクラフト技術を生かし、もふもふした可愛い動物を模した心をほぐしパートナーになる〝守護動物〟アクセサリーを提案。胴体が伸びすぎたコーギーのブレスレットなどが人気で、地元のホテルで6月に開いた販売会では1日で10万円近くを売り上げた。

就活と並行して地元のクラフトフェアや販売会、東京のデザインフェスタに出展し、サイズ調整やピアスとイヤリングの変更など要望に応え、接客力を磨く計画。ウェブ販売の技術も学習中で、アクセサリーの製作や販売に携わる仕事に就き、将来は作家として独立することが夢だ。
〝作りたい〟が制作活動支える
名古屋ファッション専門学校 テクニカルクリエーション科3年 大羽春華さん

中学校のころに熱中したファッション着せ替えゲームがきっかけで、高校時代から洋服に興味を持った。高校3年生で服飾専門学校を志し、名古屋ファッション専門学校のオープンキャンパスには4回も行った。先輩のファッションショーを見て、「大号泣した」というほど心が動き、入学を決めた。
特に忙しくなったのは、コンテストへの応募が一気に増えた2年生から。中でも力を入れたのは、学内最大のファッションの祭典「NFファッションフェスティバル」だ。それまで作品制作にコンセプトを持たせたことがなかった大羽さんは、なかなか制作が進まなかった。
そんな時、足を運んだのが、以前から気になっていた愛知県西尾市の三河工芸ガラス美術館。展示されている世界最大規模の万華鏡を見て、インスピレーションを得た。
作品のテーマは「サンカク」。制作にはカメラなどに使う偏光板を活用した。偏光板にセロハンテープをランダムに貼り付けることで偏光の状態が変わり、様々な色が表れる。それをトータル100本以上のファスナーをあしらって三角錐(すい)にし、ドレスに仕立てた。
3日間ずっと表と裏を間違って縫製し続けていたことに気付いた時には「心が折れそうになった」と大羽さん。それでも「作りたい。作らなきゃ」という気持ちが制作活動を支えた。
制作に約7カ月を要したYKK部門のドレスは、コンテストで人気投票によるオーディエンス賞を受賞した。
デザイナーを目指して就職活動を進めている。将来の夢は自らブランドを立ち上げることだ。
満足できる表現を突き詰めたい
文化服装学院 ファッション高度専門士科4年 添田恵愛さん

幼少期から服や髪形へのこだわりが強く、ロリータ系の服や海外のメイク動画が好きだった。中高生の時は周りに合わせて興味を抑えていたが、進路選びで物作りが好きなことを自覚。物作りについて広く学びたくて高度専門士科に入った。
初めはミシンの糸のかけ方も分からず不安で、毎日、家で課題を仕上げて間に合わせ、基本技術の習得に注力した。1年の後期からアレンジを加える余裕が出始め、2年次はグランジ系のリアル服中心に制作。方向性が見えてきたのは3年の後期だ。グランジはピンタレストでお手本を探して作っていたが、3年の修了制作では、生地から作り込むことが好きなのでダメージデニムを基調に、小さい時に好きだったロリータと、いま好きなパンクをミックスした作品を企画。アイデアがどんどん湧いてきて楽しく、自分で作ったと自信を持てる作品になった。
同時期に課題で、伊勢丹新宿本店のアップサイクル企画「ピースdeミライ」に参加し、見せるための服作りに挑戦。「ダメージ」をテーマに、傷を着る人の個性、魅力と前向きにとらえ、手作業でダメージを施したデニムをほぼ全身に使用。傷ついても立ち直って前に進むために、翼のような大きな袖のジャケットとミニスカート、レッグウォーマーを組み合わせた作品でミライアワード大賞を受賞した。

授業と並行して2年の時から、「服より自由にイメージを形にしやすい」とレジン製の十字架やリボン付きネックレスの制作を開始。ティックトックで「エアソエダ」として紹介し、中高生に人気。ネットや合同展、フリーマーケットで販売し、1日で8万円売れた日もある。
「他人に伝えられない内面も物作りなら表現できる。卒業制作は好きなものを詰め込んだブランドを作り、外部コンテストにも挑戦したい。将来は海外で満足できる表現を突き詰めたい」と話す。
校長推薦・ウチの逸材
愛される服作りを
愛知文化服装専門学校 アパレル技術専攻科3年 西山凛さん

小さいころから裁縫が好き。高校もファッション文化科でデザインや縫製について学んだ。卒業後は先生との距離が近く、アットホームな雰囲気にひかれ、愛知文化服装専門学校に入った。
2年生からコンテスト用の作品制作が増える中で入選したYKKファスニングアワードで、西山さんが挑戦したのはバッグ。学校の授業ではほとんど習わないアイテムだ。
頭の中にデザインはある。でも、どうやって形にするのか分からない。自分の持っているバッグの構造を見たり、縫製や素材はどうなっているのかを研究した。入選作品のバッグは、古来から日本で行われてきた陶器を修繕する技法、金継ぎに見立ててファスナーを使う独創性が評価された。
稲葉美奈子先生は「穏やかで落ち着いた性格。芯があり、周囲に流されず行動できる」と西山さんの人柄を語る。
就職活動を終え、来年4月から縫製工場で働くことが決まっている。縫製技術を身に着け、「人が喜ぶような、長く愛してもらえる服作りがしたい」と話す。
負けたくない気持ちが強み
中部ファッション専門学校 スペシャリスト学科デザインコース3年 安保大地さん

高校に通うための家から最寄り駅までの7キロの距離が人生を変えた。安保さんは毎日、この距離を自転車で通った。「元々は太っていた」というふくよかだった体形は、みるみるスリムに。服を着るのが楽しくなった。服飾専門学校を志し、丁寧な教育に定評のある中部ファッション専門学校に入った。
2年生の時、ナゴヤファッションコンテストで奨励賞を獲得した。テーマは「おべっか」。たくさんの顔のモチーフで構成されたドレスは「うそをつくのは悪いこと?」と見る者に問いかける。
先生も認める根っからの負けず嫌い。コンテストのデザイン画は、学校の規定では最低4枚の提出だったが、安保さんは20枚描いた。「絶対、賞を獲りたい」。その思いで描き切った。
あだ名は〝あぼりん〟。トランスジェンダーだ。身長180センチを超える安保さんは、自分の服選びにも悩まされてきた。
デザイナーとして働き、ゆくゆくはトランスジェンダーの助けになるようなブランドを立ち上げたいと思っている。