《ちょうどいいといいな ファッションビジネスの新たな芽》約束ごとが物作りを支える

2023/02/27 11:30 更新


日本人モデルと身長154センチのリアルな女性が登場する。「バンサン」の価値が伝わってきます

 「毎シーズン、必ずコレクション発表を続ける覚悟で活動を始めました」というのはレディスウェア「BANSAN」(バンサン)のデザイナー、伴真由子さん。市場や生産背景が大きく変化し、自らのライフステージも変化していく中で、事業の課題を乗り越えて堅実に続けています。

自分で決めた制約で

 伴さんは文化ファッション大学院大学を卒業後、アパレル企業のデザイナーとして6年間勤務。15年にバンサンを立ち上げました。専門店への卸売りと、当初からリアルとオンラインで個人客への受注販売を行っています。

 コレクションは、ブランド全体を俯瞰(ふかん)し、展開アイテムやスケジュールを組み立てます。作りたいものやデザインのアイデアがあふれてきても、その枠の中でまとめあげるそう。自らに課した制約を守る姿勢が、取引先やお客様との信頼関係につながっているように思います。

 国内で生産するオリジナルテキスタイルも使い、独自の美意識を表現します。生地や縫製の工場の方などと、物作りの話をするのが大好きという伴さん。現地にも行き、最近はスマートフォンのビデオ通話も活用して、ものを見せ合いながら説明や意見交換をします。

 「作りたい思いを理解して協力してくれる工場と出合えたのは貴重なことです」と伴さん。取引していたキルティング工場が閉業することになり、別の生地屋に相談したところ、「同じことはできないけれど、これはどうですか」とバンサンの特性をくんだ提案をもらえたそう。関係を築いてきたからこそできたことです。長く取引を続けられるよう、スケジュールや費用など取引先に無理のない範囲を心がけます。状況に応じて物作りする資金を捻出するために、細かい消耗品も含めて経費を削減する工夫をしています。

18年春夏から始めた靴下シリーズ。奈良県の工場と取り組み、特殊な編み機を使い穴が空いているような表現を実現

時間をかけ関係作る

 設立当初は大規模な合同展示会に出展し、多数の百貨店や専門店に郵送やメール、電話で案内をするなど営業に取り組みましたが、思うような成果は得られなかったそうです。最近は、これまでSNSで商品や活動を見ていたというバイヤーから連絡があったり、オンラインショップで買っていたお客様が初めて展示会に来たりといったことがありました。ブランドの発信が届いていた実感を得たことで、伴さんの心境も変化。前回の展示会では、自らも着用し、商品説明やコーディネート紹介をするインスタライブに初挑戦しました。それを見て初めて展示会に来場した方も見られ、手応えを感じています。

 小規模ブランドだからこそ、人と人のつながりが事業にも大きな影響を与えています。「螺旋(らせん)階段を登るようにブランドを成長させて、もっと素敵な商品をお届けしたい。」と伴さん。より良い商品を作り続けて、お客様や取引先に還元していきたいそうです。

アトリエでのデザイナー伴真由子さん。伴さんは服づくりを通じて人々の価値観を揺さぶりたいのだそうです

(ベイビーアイラブユー代表取締役 小澤恵)

■おざわ・めぐみ

 デザイナーブランドを国内外で展開するアパレル企業に入社、主に新規事業開発の現場と経営で経験を積み、14年に独立、ベイビーアイラブユーを設立。アパレルブランドのウェブサイトやEC、SNSのコンサルティング、新規事業やイベントの企画立案を行っている。

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