《ちょうどいいといいな ファッションビジネスの新たな芽》熱意ある若手との出会い

2023/03/29 11:00 更新


受け付け時に仕上がりイメージを説明すること、違和感が出ないように直しすぎないことを心がけている

 新たな事業を立ち上げたクリーニング店を紹介します。東京都品川区旗の台で1927年に創業し、自社工場を持つ三共クリーニングは、1月にレザーのクリーニングとメンテナンス専門のサービス「Mucha」(ミュシャ)を始めました。

特化したサービス

 代表の田村嘉浩さんは、時代に合わせた自社の優位性を持つことが重要と考えます。衣類のしみ抜き、色落ちやカビ、革の靴やかばん、革のジャケットなど特殊な依頼は多いそうです。革製品は提携する専門業者に委託していましたが、外注先の状況が変化。団塊の世代の引退後、技術継承ができずに仕上がりの質が落ちたり、以前はできたことができないと返答があったり。働き方改革で納期が延び、コロナ下で稼働率が下がって納期のめどが立たないことも相次ぎ、対応が必要と考え始めました。

 また、ファッション性の高い衣類は、襟やポケット、ネームに革が使われることがあります。以前は、通常のクリーニングの機材と材料で柔軟に対応してきましたが、より専門的な知識と技術を持って社内で行いたい意向もありました。

 ミュシャを担当する須網愛さんは、文化服装学院を卒業後、アパレルのOEM(相手先ブランドによる生産)に携わり、衣料品のメンテナンスに興味を持ちました。自ら鹿児島まで通ってしみ抜きや色補正の講習会を受講し、主催者に紹介された三共クリーニングで働くことに。皮革製品のメンテナンスを強化したい田村さんは、知識や技術の習得に熱心な須網さんの思いを受け止めました。事業を立ち上げるために、改めて須網さんに専門のメンテナンスを受講してもらい、社内で取り扱う環境を整えました。

須網さんは、メンテナンスを繰り返して長く使って革製品の経年変化を楽しんで欲しいそう

同業者から反響

 「既存のクリーニングメニューの一つとして革製品に対応していては、目新しくなく、目立たない」と思った田村さんは、独立性の高い事業として切り分けました。サービスに名前をつけ、ウェブサイトとSNSを立ち上げました。手探りながらSNSの運用も自分たちでチャレンジ。動画を活用して、須網さんの作業の様子や、初歩的なメンテナンス方法を紹介しています。意外だったのはSNSを見たクリーニング同業者からの問い合わせが多いことだそう。作業を実際に見たい要望、外注に課題を感じていたクリーニング店から須網さんにお願いしたい依頼があり、手応えを感じています。

 店頭では毎日1、2件の依頼がくるようになりました。クリーニング店だけれど革製品のクリーニングやメンテナンスも専門的にやっていると認知が広がっています。手持ちのものをケアして長く使う消費者意識の高まりや、二次流通の拡大で需要が増加していることを感じ、「今後はさらに認知を広げて、全国の顧客から配送で受け付けることが目標」です。

「何でも安心して任せてもらえる街のワンストップのクリーニング店を目指しています」と田村さん

(ベイビーアイラブユー代表取締役 小澤恵)

■おざわ・めぐみ

 デザイナーブランドを国内外で展開するアパレル企業に入社、主に新規事業開発の現場と経営で経験を積み、14年に独立、ベイビーアイラブユーを設立。アパレルブランドのウェブサイトやEC、SNSのコンサルティング、新規事業やイベントの企画立案を行っている。

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