地方発のブランドが増えている。担い手は生活や文化に根差し、自然体のファッションを発信し始めた。繊維産地を背景にしたファクトリーブランドとも異なる生き方だ。
■風土に合う色
沖縄県出身の吉田ロベルト氏が故郷に戻り、今秋冬物から本格的にスタートするのが、ストリート系メンズブランド「オキナワメイド」。沖縄での生活を想定しているため、ボトムはショーツ中心で、防寒アウターは作らない。日差しが強いのでキャップも20色揃える。
Tシャツやポロシャツのバリエーションにも、オレンジやイエローなど沖縄の風土に合う色を必ず差す。プリントのモチーフには米軍用テレビチャンネルで吉田氏が子供時代に見ていた米アニメのキャラクターを使う。ポロシャツのワンポイントにはヤンバルクイナを付け、売り上げの一部を自然保護団体に寄付する。
今後は、「かりゆしウエア」を縫製する沖縄の工場に生産を依頼する予定。「近いうちに飲食を含めたブランドの直営店を地元で出すので、旅行などで来た際に、南国のゆるい暮らしを体感してほしい」と話す。
サーフィンのメッカとして有名な宮崎県で20年以上セレクトショップを運営するワゴンは3年前、ショートパンツに特化したオリジナルブランドを立ち上げた。錦田雅哉代表は「ネットで何でも買える時代だからこそ、地方でしか買えないものが必要」と強調する。
九州地区で10店ほど卸し先が広がった。東京の合同展に出展したり、プレスルームと契約したりと販路拡大に意欲的だ。
宮崎は温暖な気候で豊かな自然に囲まれ、農産物など特産品は多い。だが、地元から発信できるファッションがなかったため、ボードショーツなどおしゃれなショートパンツスタイルの確立を目指す。
東北最大の都市、仙台でもメンズブランド「デリシャス」が卸し先を広げている。地元のデザイン会社、パイルが運営するメンズショップのオリジナルとしてスタート。
90年代に米国発ストリートカルチャーの洗礼を受けた佐野弘之プロダクトディレクターが地元の古着文化の経験も踏まえリアルに発信する。「これまでは地方発だとレベルが低いと思われてきたが、消費者には東京も仙台も関係なくなってきつつある」という。
■魅力集めて発信
大手小売業でも地域にスポットを当てた売り場作りが進んでいる。渋谷パルコは12年9月から「ミツカルストア・バイ・ワンスアマンス」を開設した。地方の人や文化に出会える場を創出した。衣食住のジャンルを国内外の人と場所に焦点を当て、モノとコトを発信する。
昨年12月に開業したイオンモール岡山には、地元の繊維産業をはじめ、職人や作家の工芸品、歴史的な食文化などを集めた「ハレマチ特区365」で、地域の魅力を発信している。
飽和市場が同質化に進むなか、大都会の魅力は薄まった。等身大でリアルな「ローカル」という切り口が共感を広げている。