11日で東日本大震災から6年。様々な復興支援の弱まりが目立つなか、地元に愛され、新しい発信地になり始めた企業がある。米「アンダーアーマー」の日本総代理店ドームだ。福島県いわき市内に巨大な物流センターを建設し、プロサッカークラブも立ち上げた。
「いわき市を東北一の街に」(安田秀一代表)のスローガンは、欧米に根づくスポーツ文化による〝町おこし〟の一つであり、新しい未来への挑戦でもある。
(杉江潤平)
ドームは震災後、いわき市に物流センター「ドームいわきベース」を建設した。倉庫は24時間稼働し、自社で運営する。ここに現在、約400人が働く。
15年12月には、「いわきFC」を運営するいわきスポーツクラブを立ち上げた。初年度は約30億円を投じて物流センター脇にグラウンドや施設を整備。選手を子会社社員として雇用し、用具提供だけでなく、トレーニングや栄養管理法などもサポートしている。
■復興の本質
ドームが目指すのは、スポーツを通じた地域復興。地域に根ざしたクラブチームが地元のシンボルとなり、街の一体感とブランド価値を高め、街中に365日営業できる複合型スタジアムを作ることで人を呼び込み、交通・飲食・宿泊などの波及的な需要と好循環を生み出す――欧米の事例を参考に、そんな青写真を描く。ゆくゆくは、「100億円のビッグクラブにする」(大倉智いわきスポーツクラブ代表)構想だ。
ドームといわき市のつながりは全くの偶然。震災直後に支援物資を届ける際、都内から車で走ってガソリンが半分になったところが、いわきだった。その後も靴やウェア、漁船など累計約5億円を寄付したが、「砂漠に水を撒くような感じ」(今手義明専務取締役)で手応えが無い。「本質的な復興を突きつめ、行き着いた」のが雇用の創出だった。同じ頃、当時使用していた倉庫が手狭になり、「物流拠点を被災地に置けば、復興につながるのでは」と考え、いわきでの建設が決まった。
■融和の象徴
こうした活動を地元はどう見るか。いわき商工会議所の小野栄重会頭は「当初は、物流拠点を作って終わりかな、と正直思っていた」と明かす。しかし、その後、いわきFCが生まれ、県2部リーグで圧勝するなど好成績を収めると、口だけではないことが理解され、地元の雰囲気は変わっていく。
6月に福島民友新聞社とオフィシャル・パートナーシップ契約を交わすと、現地メディアでの露出が向上。9月には「スーパースポーツゼビオいわき店」に330平方メートルものアンダーアーマー売り場が生まれるなど、「いたるところでロゴマークを目にするようになった」(小野会頭)。いわき市のふるさと納税の返礼品では、今やアンダーアーマーグッズが一番人気だ。
いわきFCには、市民融和を促す役割への期待も高い。もともと、いわきは5市9町村が合併した市で、「地域同士の垣根は今もある」(地元関係者)。加えて原発事故後は汚染地域から2万人以上が避難し、地元住民との間に摩擦もあった。この解決の一つに「利害関係が無く、誰もが一緒に応援できる象徴」(小野会頭)として、いわきFCが注目されているのだ。
今後、いわきFCが順当にリーグの階層を上がると、3~5年後には数万人規模のスタジアムが必要になる。ドームの理想は、市中心部で複合商業施設と一体となったものだ。そうした施設の運営経験を積むため、今年6月にはグラウンド脇に商業型クラブハウスを開業する。飲食店を5店導入、英会話教室やアンダーアーマーショップなども入れ、単なるトレーニング施設にとどまらない新しい形のクラブハウスの成功を目指す。