22~23年秋冬ミラノ・コレクション クラシック、スポーツ、ビンテージ、パンクが浸食し合い変容する=グッチ

2022/03/03 10:59 更新


 グッチが、久しぶりにミラノ・ファッションウィークでショーを開催した。コレクションタイトルは「エクスクイジット・グッチ」(絶妙なグッチ)。ショー会場の壁はゆがんだ鏡で全面覆われている。そこに、絶え間なく動き点滅し、赤く色を変えるサーチライトの中を歩くモデルたちの姿がデフォルメされて映し出された。形や色、次元の感覚が狂わされ、非現実的な世界へと誘われていく。

 クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレは、1600年代の反射光学の論文で論じられた魔法の鏡について熟考し、「現実を拡張し変容させ、幻惑と驚嘆を引き起こすものであり、遊び心あふれる屈折のメカニズムが、あらゆる空間的限界を打破し、脱出の道が開かれるもの」として鏡を捉えた。また「衣服という、触れることができる実体の上で、多様なものを取り入れて変換し、固定観念を変え、既成のものに手を入れ誇張することで、変容をもたらし魅惑を取り戻す『真の光学実験室』の魔法の装置として、衣服を祝福する」と語っている。

 ショーでは、クラシカル、スポーティー、ビンテージ、パンクなどが自由自在に組み合わされ、浸食し合い、変容した。今回は「アディダス」と協業し、話題をさらった。テーラードスーツの胸元にはアディダスのトレフォイル(三つ葉)のロゴ、その下にはグッチの名が、パンツのサイドにはスリーストライプが入る。アディダスのロゴは、ケープ、ビュスティエ、ドレス、手袋、水泳帽、バッグなどあらゆるアイテムに広がっている。この協業で、もちろんスポーティーな要素は加わっているが、グッチのテーラーリングなどのクラシカルな要素と個性あふれる男性モデルたちの存在によって明るく健全なスポーティーには程遠い。一筋縄ではいかない、アンニュイで不穏なスポーティーという独自なムードを醸し出した。

グッチ(Courtesy of Gucci)

 コレクションはメンズが中心で、女性モデルは全体の2割以下。しかし、女性がメンズのシルエットのダブルブレストのスーツを着たり、男性がフェミニンなパフスリーブのブラウスやレースのトップを着たりというエクスチェンジが行われている。「マスキュリンとフェミニンを自由に配合し、感じるままに服を着よう」という提案が目立つ今シーズンのレディスだが、実のところ、その根底には「フェミニニティーをどこまでどう出すか」というジェンダーへのこだわりがある。ミケーレは、人間なら誰しもが持っている両性具有的な面そのものを、ありのままに、思いのままに表現するという全く別のアプローチを貫いている。

グッチ(Courtesy of Gucci)
グッチ(Courtesy of Gucci)

(ミラノ=高橋恵通信員)

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