ぬいぐるみ作家・平栗あずささん、推しぬい文化を支える 制作本出版や素材の普及にも一役

2026/08/26 11:00 更新NEW!


平栗さんがプロデュースする推しぬい

 ぬいぐるみ作家として活動し、推しぬいブームをけん引する平栗あずささん。ぬいぐるみ制作の型紙本をはじめ、ぬいぐるみ用の生地やワッペン、刺繍関連商品のプロデュースまで幅広く手掛ける。現在では、国内だけでなく海外にもファンを持ち、推しぬい文化を支える存在となっている。

(多田知史)

刺繍会社立ち上げ

 平栗さんは、学生時代にジュエリーデザインを学び、ジュエリーメーカーに就職。昔から立体物を作ることが好きだったという。しかし当時、ジュエリー業界では小ぶりな商品が中心になっていた。「もっと材料の自由度が高くて、いろいろな表現ができるものを作りたい」と、趣味として続けていたぬいぐるみ制作の道へ進むことを決めた。

 ぬいぐるみに興味を持ったきっかけは子供時代にまでさかのぼる。小学生の頃には、ぬいぐるみ作家、大高輝美さんのマスコット本に夢中になり、掲載作品を作って遊んでいた。さらに、母親がテディベア教室に通っていたこともあり、自身も幼少期からテディベア制作に触れてきた。「器用だったので、小さい頃からいろいろ作っていた」と話す。

 ぬいぐるみ業界に入った平栗さんは、おもちゃメーカーでキャラクターぬいぐるみのデザインなどを担当。しかし、当時は自分で型紙を一から制作する機会は少なかった。「自分で型紙を引けるようになりたくて、独学で勉強した」と話す。退職後、夫とともに刺繍会社「ボクトウシシュ―」を立ち上げた。アパレルブランド向けの刺繍加工を手掛けながら、ぬいぐるみ原型制作の仕事も少しずつ請け負った。

 転機となったのはコロナ禍だった。SNS上で、人型のぬいぐるみを自作する投稿を見かけるようになり、「これから流行するかもしれない」と制作を開始した。当時は自由に使える型紙も少なく、ほとんどが手探りで作っていた。

 「もっと分かりやすく解説したら、作りたい人がたくさんいるのではないか」と推しぬいの製作本を22年に出版し、予想以上の反響が寄せられた。コロナ禍でおうち時間が増え、手芸ブームが起きていたことも追い風だった。

平栗あずささんをモチーフにしたぬいぐるみ

もっとリアルに

 特に印象的だったと語るのが、ユーザーたちの熱量の高さだ。「推しのためというモチベーションは本当に強い」と話す。当初は初心者向けに、顔パーツをワッペンで再現するなど簡単に作れる仕様で制作本と目のワッペンを販売した。しかし、ユーザーから寄せられたのは「もっと本格的に作りたい」という声。難しいから簡単にしてほしいではなく、もっとリアルにしたい人が多かった。現在は、手刺繍で髪や瞳を精密に表現するユーザーも増えている。「人が手で刺繍したとは思えないレベルの作品もたくさんある。『推しのため』という思いは特殊な力がある」という。

 平栗さんは、ぬいぐるみ用素材の普及にも力を入れてきた。代表的なのが、ソフトボアと呼ばれるぬいぐるみ向け生地だ。一般的なぬいぐるみのような質感を再現できる素材だが、手芸店ではほとんど流通していなかった。手芸メーカーと協業し、全国の手芸店で取り扱いが始まると、推しぬい制作者の間で一気に広がった。

 現在、ワークショップも開き、ボディーだけをミシンで作るなどのマニアックな企画が人気。「推しぬいはぬい制作のインフラ整備の気持ち。ひとまずやり切った」と話す。次は自分が作りたいと思う、趣味性の高い、人型ではない身近でシュールなものを制作したいとした。

平栗さんが次に目指す人型ではないぬいぐるみ


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