美しい映像が語るストーリー(宇佐美浩子)

2018/05/19 14:00 更新


昨年、パリ市立ガリエラ美術館・モード&コスチューム博物館で、昨年4月27日から8月13日まで開催された「Dalida, une garde-robe de la ville a la scene(ダリダ、プライベートからステージまでのワードローブ)」展。

かつてここ日本でもアラン・ドロンとのデュエット曲「あまい囁き」で一世を風靡した、フランスの歌姫ダリダ。今でいうファッショニスタ的存在であったのだそう。

©2017 BETHSABEE MUCHO-PATHE PRODUCTION-TF1 FILMS PRODUCTION-JOUROR CINEMA

そんな彼女の素晴らしい衣装コレクションや貴重なアーカイブ資料など、全てを管理する実弟より美術館に寄贈されたのが、本展にて披露された衣装やワードローブの数々ということだ。またその多くが有名メゾンやデザイナーによるオートクチュール、プレタポルテというのだから、ファッション好きにはたまらない内容だったはず。(残念ながら私は鑑賞できておりません…涙)

たとえばニナ・リッチ、ピエール・バルマン、イヴ・サンローラン、キャシャレルほか50年代末から80年代までの各時代を代表するスタイルのクリエイターたち一連の名前は、懐かしい時代の香がする。

ちなみに会場構成を担当したのはちょうど一昨年の今頃、ここ東京でも開催され、話題を集めた展覧会『空へ、海へ、彼方へ──旅するルイ・ヴィトン』で、アーティスティック・ディレクター&セット・デザイナーを手掛けたロバート・カーセンが担当していたと知り、ますます見逃したことが残念で仕方なく思うばかり。


さて、随分と前置きが長くなってしまったのだが、そんな彼女がもしも健在なら85歳を迎えた今年。

スターだからこそ華やかでもあり、苦悩にも満ちた54年の人生を語るシネマ『ダリダ~あまい囁き~』が日本公開となる、ということに心なしかスペシャル感を抱いてしまった。

とりわけダリダを演じるローマっ子、スヴェヴァ・アルヴィティのダリダとの同化(ちなみに両名ともイタリア人)、ともいうべき「なりきり度」の高さは、前述の実弟ブルーノ・ジリオッティも、監督と脚本を手掛けたリサ・アズエロスもかなり満足された様子。

もちろん外見的な類似に関しては、毎日4時間のメイクアップの技も否めない。(プレス資料にある彼女のインタビュー記事によれば「カツラに、つけ鼻、さらに入れ歯も入れた」とか)。また両者共にモデル経験ありという美的観点からも納得のいくところ!

この続きは劇場で要確認のほど!


『ダリダ~あまい囁き~』

5月19日(土)角川シネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

©2017 BETHSABEE MUCHO-PATHE PRODUCTION-TF1 FILMS PRODUCTION-JOUROR CINEMA


美しき歌姫、ダリダの生涯にスポット当てた新作の話題でスタートした今回の「CINEMATIC JOURNEY」のテーマは「美しい映像が語るストーリー」。ということで、続いて向かう先は、現在公開中のイタリアのひと夏の思い出!?


「この映画作家の作品は、やっぱり映像美が際立っているから観たくなる」と、おそらく多くの賛同者がいると思われるのが、巨匠ジェームズ・アイヴォリー。

そしてまた何といっても、男優への美意識も高い!

たとえば近々、俳優業のフィナーレを飾る記念すべき主演作『ファントム・スレッド』が公開になるダニエル・デイ=ルイス。彼にとって、代表作の一つに数えられる『眺めのいい部屋』もアイヴォリー監督作。

また、その翌年に公開になった『モーリス』には、ヒュー・グラントが主演するなど、なるほど納得では?

そんな名匠が自らの監督作品以外で初めて脚本を手掛け、かつまたアカデミー賞脚色賞を受賞というお墨付きの新作『君の名前で僕を呼んで』が、現在公開中だ。

1928年生まれにして、最前線でご活躍という素晴らしキャリアにも、ただただ尊敬の念でイッパイになる。


さてその巨匠が今回、チームを組んだ監督は注目のイタリア人監督ルカ・グァダニーノ。

まさに祖父と孫世代ともいっても過言ではない世代差なのだが、そのチームプレーの素晴らしさは、監督がインタビューでも語っていた言葉

“映画作りはいつもミラクルな喜び”

に満ちていたに違いない。

映画初主演のティモシー・シャラメとアーミー・ハマーのアンサンブルのすばらしさ、美しい風景と音楽のハーモニー、そして俳優と同じく本作のキャストである「家」の存在など、本作の魅力ついては、すでにご覧になった方も多々おいでの頃かと思うので、ここではあえてシネマの裏側をのぞいてみると、そこにはやはり、イタリア人監督らしい微笑みがこぼれる裏話があった。

“映画づくりのために、本当の家族をつくりだすんだ”

このプレス資料にある監督の一言に、私は思わず「Bravo!」と叫びたくなった。なぜなら私もさまざまなプロジェクトにおける姿勢が、監督とちょっと似ているから。

そして監督自ら、キャストやスタッフを自宅に招いて手料理でもてなしたと聞けば、なおさらだ。

そんな温かな時間の流れの中で完成した本作は、格別な味わいに仕上がっている。


『君の名前で僕を呼んで』

TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー中

配給:ファントム・フィルム

©Frenesy, La Cinefacture


「美しい映像が語るストーリー」をテーマに旅をしている今回の「CINEMATIC JOURNEY」。

ゴールはここ、東京のとある有名な画家のお宅!


前述のイタリアンファミリーに代わって、今度は昭和49年、昔ながらの日本の家に暮らす画家、熊谷守一家のある夏の1日を描いた『モリのいる場所』。

人間味あふれる作風に定評のある沖田修一監督、そして日本を代表する名優、山崎努と樹木希林による夫婦役とあらば、作品を観る前から心を和ませてくれる気分に早々と浸ってしまうだろう。

そして、熊谷守一を知らない者でも本作を通じ、彼のシンプルでありながら、計算し尽くされたのではないかと思える作品に興味を抱くことになるのではないだろうか。

それはきっと、主演の2人が長いこと作家へ寄せる思いが演技に込められているに違いない、とプレス資料を眺めつつ、一人勝手に思った次第。


97年の生涯の内、晩年の30年間は外出することもなく、家と庭だけで日々の暮らしが完結していたといわれるモリ。

そのまなざしの向こうには常に、小さなアリや生き物、植物など、いくつになっても好奇心を失うことのない夫の姿を見守る妻。

二人の52年の歳月の中で培われた空気感が、ほんわかとスクリーンから伝わってくる。

また台詞こそないものの、本作の舞台であり、かつまた主演の一役を担う「家」と「庭」が放つ輝きははかり知れない。


『モリのいる場所』

5月19日(土)シネスイッチ銀座、ユーロスペース、シネ・リーブル池袋、イオンシネマほか全国ロードショー

©2017「モリのいる場所」製作委員会



うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中



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