購入時のスーツよりも美しく仕上げる――イマージュプロ(名古屋市、久田良一社長)はスーツに特化したメンテナンス企業だ。持ち込まれたスーツを一着ずつ正確に〝診断〟し、水洗いや染み抜きといった必要なメンテナンスを行う。全国でもスーツに特化したメンテナンス店は少なく、ニッチなビジネスではあるが、逆にブルーオーシャンとも言える。
(森田雄也)
業務フローは大きく八つ。まず顧客からスーツを受け付けて、すぐに行うのが診断だ。
◆業務フロー
①受付 ②診断 ③カルテ作成 ④採寸 ⑤仕付けと水洗い ⑥成形 ⑦プレス仕上げ ⑧納品
診断からカルテ作成
「新品の時と比べてどういった不都合が起きているか」をジャケットやパンツも表から裏まで全てチェックする。生地の状態を見るだけでなく、付属や芯地、裄(ゆき)わたなど細部までどんな素材を使っているかを見て、どこをどうやってメンテナンスすれば新品時の品質になるのか診断する。およそ10分かけてチェックし、それをカルテに書き込む。
次に行うのが、採寸と仕付け。採寸をするのは、水洗い後の縮み幅を把握する必要があるためだが、やっていないクリーニング店もあるようだ。仕付けは、表地と芯地が動いてしまい形崩れを起こし、服の内部やシルエットが崩れるのを防ぐためだ。手間はかかるが、水洗いは汚れがしっかりと落ちる分、服への負担も大きいため、必須工程となっている。
その後に行う水洗いでは、基本的に洗剤と独自製法の特殊加工剤を入れたバケツに漬け込む。たたきつけるような洗い方は服が傷むので絶対にしない。スーツの汚れ具合を見ながら、数分から長いと20分近く漬け込み、洗剤の種類や加工剤の量も変える。必要に応じて、水洗いは複数回行うこともある。
水洗いが終わると、丁寧にしわを伸ばしながら成形して、プレス掛けをして納品する。「プレス次第で着心地が全然変わる」というほどプレスは重要。コツは裏地のしわになりにくい部分からかけて、しわになりやすい部分を最後にかけること。プレスしやすいように、独自にアタッチメントも作成した。今でこそ1着30分程度でできるようになったが、昔は「1時間以上かけてプレス掛けをしていた」という。
格安店からの転換
納品まで最短でも2週間かかり、長い場合は1カ月を要し、価格は8000~1万7000円と一般よりも数段高くなる。そこから染み抜きや補整、かけつぎなどを行うと費用はさらにかかる。
無名だったころ、営業を掛けて一番最初に取引が始まったのが「ブリオーニ」だった。高級スーツブランドも、顧客に薦めるメンテナンス店が無くて困っていた。今ではエルメネジルド・ゼニア、ロロ・ピアーナ、ストラスブルゴなど一流ブランドとも提携が進み、顧客のメンテナンスショップとして活用されている。顧客が経営者の場合、1着200万円を超えるスーツを複数持ち込まれることも珍しくない。
久田社長は30歳の時に家業のクリーニング店を父親から継いだ。元々は料金数百円で受ける、どこにでもある町のクリーニング店だった。
スーツのメンテナンス業に特化するきっかけは、テーラーを営む松田茂伸氏が講師を務めるクリーニングの勉強会に参加したこと。「日本のクリーニング店でプロと呼べるところは一つもない」という言葉が頭に残った。以来スーツについて勉強を続け、今から10年ほど前に思い切って業態転換した。最初のころはプレッシャーも大きく、「大げさだけれども、命がけでやっていた」という。今ではメンテナンスしたスーツは数万着に上る。
コロナ禍にあっても、注文は途切れていない。今年になって、女性客を取り込むための専用サイト「ワードローブラボ」を立ち上げた。
今後は「メンテナンスという文化を日本に根付かせたい」とし、将来的には海外の展示会でメンテナンス技術を見せたいと考えている。
(繊研新聞本紙20年8月26日付)