繊研新聞は昨年11月、5回にわたり「叫び 国内製造業の現場から」という連載を1面で組みました。低工賃と人手不足に悩み、自転車操業が続く国内縫製業を取材し、その実態を生々しくルポルタージュした力作です。同連載は優れた調査報道として掲載中から反響を呼び、ネットでも広く拡散されました。
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この連載を書いたのは、名古屋支社に勤める若手の一人、森田雄也記者(写真下)です。連載のきっかけや取材・執筆時に苦労したことなどを聞いてみました。
――連載を書いたきっかけは?
森田 私が入社から知っている東海地区のメンズアパレルの経営者が数年前に小さな縫製工場を買収したのですが、その後、取材に行くたびに、その経営者から縫製業界の問題を聞いていました。
例えば、「うちは法令を守って社員、実習生を働かせているが、法令違反の縫製工場のほうが人件費を低く抑えており、コスト力で差が出てしまう」「(実習生受け入れ機関の)監理団体が法令違反をかいくぐる知恵をばらまいている」――といった具合です。
健康保険や厚生年金、雇用保険に入らなかったり、残業代単価を低くしたりすると会社の経費負担が減るので、法令を遵守している工場はベースのコスト力で勝てるわけありません。言ってしまうと、ちゃんと法律を守っている正直者が馬鹿を見ているのです。これはどう考えてもおかしい。
その経営者からは「力を貸してくれ。それが業界紙の役割じゃないのか」とも言われました。ここで応えないのは業界紙の責務放棄になると報道する決意を固めたのが去年春頃ぐらいのことです。
――どのように取材を進めていったのですか?
森田 当初は連載でなく、平均加工賃を報道するつもりでした。「今の平均加工賃はこれぐらいで、最低はこれぐらい無ければ工場経営は成り立たない…」と、業界に警鐘を鳴らすようなイメージで。
先輩記者のK原さんやA岡さんにも相談に乗ってもらいながら、『全国繊維企業要覧』に載っている縫製加工業約1000社に、工賃についてのアンケートをFAXしました。
アンケートは送付件数の約1割の100社程度から返信がありました。エクセルで100社を表にして、平均を出し、「よし書くぞ」となったとき、ふと「平均工賃の報道には何の意味があり、誰が幸せになるのか?」と考え、躊躇しました。
アンケートは1000社に送った
――どうして書くのをためらったんですか?
森田 例えば、加工賃はボトムでは1枚1000円台から2000円台前半で受ける工場が多いのですが、工場によっては4000円の工賃を取って仕事をしています。これを「ボトムの平均工賃は3000円」と紙面で報道すると、2000円の工場は喜ぶけど、死に物狂いで4000円を維持している工場は、アパレルや振り屋から「工賃を下げろ」と圧力が掛かるでしょう。
意見は分かれるかも知れませんが、私は頑張っている工場の足を引っ張りたくありませんでした。そこで、縫製業が置かれている現状と課題、展望を連載形式で報道する方向に切り替えたのです。
――なるほど。
森田 連載の反省点としては、低工賃・小ロット問題については、縫製工場経営が苦しいのを収益構造まで突っ込んで取材し、書いたほうが良かったということ。あと、技能実習生問題については、法律改正というタイミングもあり単独連載できる大きなテーマだったと思います。今回は取材力不足で書ききれませんでしたが、もっと書きたい問題もありました。
――反響は大きかったですね。ここまでリアリティを感じさせる記事は、一般紙を含めてもなかなか見られません。
森田 収穫は、記者のやりがいと繊研新聞社の使命を肌で感じられたことです。今回、真剣に縫製業界と向き合い取材しました。この記事で何を伝えたいのか、誰が幸せになるのかを考え、自分の思いや考えを素直にぶつけました。
取材への熱量があると初めて会った人も心を開いて話してくれるのを感じました。社内でも、デスクにも書き手としての思いを伝えました。自分で言うのもなんですが、読者のリアクションを見ると一定の仕事が出来たんだと思います。
今回はひとりで記事を書きましたが、東西の記者と連携し議論してつくり上げれば、また違う形が出来たとも思います。次回以降に生かしたいです。
――ありがとうございました。
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すぎえ・じゅんぺい 本社編集部所属。編集プロダクション勤務の後、03年に入社。大手アパレル、服飾雑貨メーカー、百貨店担当を経て、現在はスポーツ用品業界を取材。モットーは『高い専門性と低い腰』『何でも見てやろう』