ここでポートランドのアウトラインを確認しておきましょう。
ポートランドはオレゴン州最大の都市で、人口は約59万人。かつては林業が盛んでしたが、1980年代以降は豊富で安価な電力資源を背景にIT企業の参入が相次ぎ、今やシリコンバレーに次ぐハイテク産業のメッカになっています。市の中心部は東西1.5キロ、南北4キロとコンパクトにまとまっているのも特徴です。
以下にご紹介する市街地の再活性化策などが当たり、ポートランド市の人口は増加中。若い世代を中心に毎週500人が流入しており、都市圏の人口はこの10年で約20%増えました。
■ウォーカブルシティ
皆さん、「スプロール化現象」をご存知ですか?
都市開発が郊外へ無秩序に広がってしまうことで、自然環境の破壊だけでなく、中心部の空洞化にもつながる現象です。アメリカは車社会のため、こうした現象が起こりやすいと言われています。
今でこそ活気に富むポートランドも、実は他の地方都市と同様、1960年代までは市街地の空洞化に陥っていました。しかし、オイルショックを契機にエネルギー利用のあり方やオレゴンの自然を守る気運が高まると、環境を保全しながら活気ある街づくりを目指すものに市政が転換。中心市街地の活性化に向けて市民一丸となって取り組んでいきました。
街の転機を象徴するものが二つあります。
一つは前回もご紹介した路面電車をはじめとした公共交通機関です。
70年代当時に計画されていた高速道路建設を取りやめ、その資金を郊外と市内を結ぶ電気鉄道「ライトレールトランジット(LRT)」の建設に充当。その後も路線は拡大し、市民に「パーク&ライド」(自宅最寄り駅で駐車し、中心部へは公共交通を利用する)という生活スタイルを根付かせました。
街を歩くと、本当にくまなく路面電車が敷設されていることが分かります。自動車での移動よりも便利だと思います。また、LRTやバスには写真のように自転車を積めるスペースもありました! 聞くところによると、ポートランドで就業する人の約15%は自転車で通勤しているそうです。
もう一つは、市の中心部に1980年代前半にできた広場「パイオニア・コートハウス・スクエア」です。
以前はここにデパートの2階建て駐車場がありました。ここを11階建ての駐車場ビルに建て替える計画が出た際、「街の中心には広場が必要」と考えた市民が反対運動をした結果、その案が覆ったそうです。公園の建設資金は募金で賄われ、協力した市民は6万人もいたとか。広場にあるレンガ一つひとつには、募金者の名前が刻まれています。
市街地活性化のスローガンは「24時間ダウンタウン」。昼夜問わず人が集えるようにするため、市内の建物は、前回ご紹介したとおり、「職・住・遊」のミクストユース機能が基本です。
1ブロック(区画)の距離は約120メートルが一般的な米国においては異例の約60メートルの短さに設定しています。これは、角地を増やすことで資産価値を高めるとともに、市街地を走る自動車の速度を抑えて歩行者に安全な環境を作る狙いがあるためです。
このようにして歩きやすい街(ウォーカブルシティ)が形成されていったのでした。
■最新スポット・アルバータストリート
現在進行中の再開発エリアで、最新の注目スポットをご紹介したいと思います。ダウンタウンの北東で、市の南北を流れるウィラメット川を越えたノースイースト地区にある「アルバータストリート」がそれです。
この通りを歩くと、建物の壁面に描かれたカラフルな壁画が数多く目に入ってきます。
しかし、このエリアはつい最近まで治安の悪いところだったそうです。ここが見違えるようになったのは、市が「アート」を軸とした活性化策を打ち出してから。様々な優遇施策を進めて各国の芸術家を住まわせ、建物の壁面を彼らのキャンバスとしたそうです。
また、ストリート沿いの空き店舗を低家賃にしてレストランなども誘致。そうすることで、見て楽しい、食して楽しい通りへと変貌するようになったのです。今後の発展がとても楽しみですね。
【関連書籍】
ポートランドブームに火をつけたヒット作品、繊研新聞社発行の「GREEN Neighborhood ~グリーンネイバーフッド 米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた」
すぎえ・じゅんぺい 本社編集部所属。編集プロダクション勤務の後、03年に入社。大手アパレル、服飾雑貨メーカー、百貨店担当を経て、現在はスポーツ用品業界を取材。モットーは『高い専門性と低い腰』『何でも見てやろう』