西ベルリンのギャラリー通りに位置するコンテンポラリーギャラリー「Bermel von Luxburg」 にて、パリ拠点のアーティストFabien Dettori(ファビアン・デットーリ) によるライブパフォーマンスが開催された。同イベントは、昨年12月9日から今年の2月3日まで開催されたグループ展「Petit Format」の関連イベントとして行われた。
「Bermel von Luxburgは、絵画と彫刻を中心とした世界中のアーティストのエキシビジョンを行なっているギャラリーであり、著名アーティストだけでなく、若き気鋭アーティストのグループ展や海外のギャラリーとのコラボレーションプロジェクトなども積極的に行なっている。日本人作家の作品も幅広く扱っており、「Samurai Museum」のキュレーションを手掛けていることでも知られている。
ファビアンのパフォーマンスは、通常の展示スペースとは別の部屋で特別に実施され、作品制作の過程を実際に披露するといったものだったが、これまで見たことのない制作風景で非常に興味深かった。彼が愛用するアンティークのポラロイドカメラで撮り下ろした女性のヌード写真をフィルムがぐちゃぐちゃになるまで水に浸す、ポラと同サイズの小さなキャンバスに写真と同じヌードをドローイングし、その上から金箔を一見無造作に貼り付けていく。その上に水浸しで透明になったポラロイドを転写し、乾かして完成。
素人目線の非常に簡単な説明だが、繊細な作風にはもっと細かくてこだわりの過程があることだろう。写真用の薬品を使い、古い絵画のような深みのある作品に仕上げているというが、黒い額縁に入れられた小さな作品たちは、制作過程を知らなければ、よく目を凝らして見ても写真なのか絵画なのか、また、どのように作られているのかよく分からない。ファビアンの作品は、ポラロイド写真と同じ小さなキャンバス上で独自のコラージュ技術により、写真と絵画の境界線を曖昧に描き、観る人の想像を膨らませるものだ。
女性のヌード以外にも抽象的な風景写真や日本の金継ぎ技術からインスパイアされたというヒビ割れを表現した作品などもある。限定人数で披露されたパフォーマンスだったが、本人いはく、人前で作品制作の過程を見せることは初めてで慣れていないことから手が震えるが、同時に作家は大体アルコールの問題を抱えていると語り、ゲストたちの笑いを取っていた。実際、作業テーブルの上には差し入れされたのかベルリンの酒メーカー「Go-Sake」のボトルが置いてあり、思わず笑ってしまった。
そんなチャーミングでフレンドリーなキャラクターも良かったが、画家の母と写真家の父を持ち、自身もファッションフォトグラファーとして活躍していた背景がある。そんな女性の身体の美を知り尽くしている写真家としての感性、金箔を使用することによって引き出されるエロティシズムやアンティークのような深み、描いただけでは絶対に出ない写真というリアルなど、じっくりと作品を観れば観るほど引き込まれていった。
ベルリンのすぐ後にはニューヨークでエキシビジョンが開催。世界各地を廻る多忙なアーティストの貴重な作品制作の現場に立ち会えたことを光栄に思う。ファビアンのインスタグラムにて制作過程の動画やアーカイブ作品が観れるので、気になった方は是非。
長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。