ドイツの公共交通機関が乗り放題、9ユーロチケットの魅力(宮沢香奈)

2022/08/23 06:00 更新


 ドイツ政府は、今年6月から8月までの3カ月間限定で月額9ユーロ(約1,300円)で、ローカル列車、地下鉄、バス、トラムといった交通機関が乗り放題となる「9ユーロチケット」を発売し、ドイツ全土で利用できるというかなり太っ腹なサービスを実施している。ICEやICなどの特急列車や一部の民間鉄道会社は対象外となるが、それでもドイツ国内のどこで購入しても有効な上に、駅構内やプラットホームの券売機やアプリから誰でも購入可能となっている。

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 これには、ロシアのウクライナ侵攻によって、エネルギーコストが高騰し、ドイツ国民の生活に影響を与えていることから、まず自動車利用によるエネルギー消費を抑制するため、公共交通機関の利用を促す目的で販売された経緯がある。

 ドイツ交通会社協会によれば、6月の時点ですでに3000万人以上が9ユーロチケットを購入しており、公共交通機関の利用が大幅に増えたと発表している。2019年の6月と比べると42%も増加したとのことで、ドイツ政府の狙い通りの効果が出ていることになる。

 筆者のようなフリーランスは定期を所持していないため、公共交通を利用する際には当然ながらその都度チケットを購入している。ベルリンでは、2022年8月現在、シングルチケット3ユーロ、4枚綴りの回数券が9.4ユーロとなっているため、4枚チケットより、1ヶ月乗り放題の方が安いという驚きの値段設定となっている。

「9ユーロチケット」通常のチケットと同様に種類と月日と名前を書く欄が印字されただけのシンプルな紙チケット。

 これを利用しない手はないので、早速6月から購入し、コインケースの中に常に忍ばせている。ベルリンでの使用はもちろんだが、タイミング良く6月末に取材でニュルンベルクへ行く予定があったため、市内を移動する際に活用させてもらった。

遠方からの観光客で賑わうNürnberg Hbf(ニュルンベルク中央駅)周辺
駅からすぐのところにある雰囲気の良いブリュワリーやスーベニアショップ

 対象外の特急列車ICEで、Berlin Hbf(ベルリン中央駅)からNürnberg Hbf(ニュルンベルク中央駅)まで行き、そこから地下鉄のUバーンに乗り換えて目的地のMesseまで向かった。ニュルンベルクでは、シングルチケットが3.2ユーロ、4枚回数券は11ユーロとベルリンよりも若干割高な上に、地下鉄で30分ほどの位置にあったホテルまでも全て9ユーロチケット1枚で賄えてしまい、お得感と満足度に思わず笑みが溢れた。

ベルリンと違い、落書きや酔っ払ってる人もなく(笑)、清掃が行き届いているニュルンベルク市内の地下鉄駅
これまたベルリンと違い、交通公共機関全てエアコン完備

 9ユーロチケットの魅力は、破格な値段と利用価値にあるが、通常のシングルチケットのようにワンウェイのみ90分間有効といった制限もなく、さらには、プラットホームに設置されている日時を印字する機械が故障していて、電車に乗り遅れそうになったり、苛立つこともない。ドイツの駅には基本的に改札口がないが、無賃乗車を取り締まっている「コントローラー」と呼ばれる強面の二人組に遭遇することがある。前述した制限を守っていなかったり、印字がされていないチケットを所持していると罰金が課せられてしまうのだ。

 9ユーロチケットであればそんな心配もいらず、ちょっと遠くまで足を伸ばしてみようという気分にもなる。先日も友人と30度を超える猛暑の中、地元の人たちが開催しているフリードリヒスハーゲンのフリーマーケットへと出向いた。どこに行っても混雑している中心地と違い、ゆったりとした時間が流れており、長閑な街並みと豊富な自然のおかげでちょっとした遠足気分を味わうことができた。

フリーマーケット会場のすぐ横を走るおもちゃみたいな名物トラム



 大好評の9ユーロチケットは延長販売を望む声が多く、ドイツ政府も検討しているとのこと。例年の冷夏が嘘のように暑い日々が続く今夏。残暑になりそうな9月も9ユーロチケットが利用できたら、もう少し遠くまで足を伸ばしてみたいと思う。

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長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。

セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。



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