私は大阪支社で記者をしております、小堀と申します。今日は、7月21日の繊研新聞7面に掲載された特集「イチ押し差別化素材」を皆さんにご紹介したいと思います。
この特集は繊研新聞の数ある特集のなかで、長寿企画の一つ。さかのぼると20年以上前から続いている企画で、特集タイトルからわかるように、その時々の“イチ押し”の素材を紹介するという内容です。
掲載している素材は、合繊や天然繊維の素材メーカー、加工業者が開発した独自技術による素材、あるいは繊維商社が扱うオリジナル素材を幅広く載せています。
「商品価値を高めたい」とお考えの方々には、新しい企画の素材選定にぜひお役立てください。
■あなたの好きな素材は?
突然ですが、あなたには好きな素材がありますか?その素材が好きな理由は何でしょうか?
私の場合はコットンとウールがほとんど。特にウールは春夏によく着ていて、この数年は毎日のようにウールのTシャツを着ています。
ウールは“温かい”“冬の素材”というイメージをお持ちの方々が多いかと思います。私もこの仕事をするまではそうでしたが、糸作りの工夫で毛羽を減らした細い糸を使って作られた生地は本当に快適。
そもそも、ウールは天然の機能素材。防臭性(臭いの発生を防ぐ)、吸湿性(衣服内の湿気を吸って、吐き出す)という実用的な機能を備えている。臭いにくい、蒸れにくいという特徴は年間を通じてありがたい機能です。ところが、これが一般には知られていないのがもどかしいところ・・・。
控えめな光沢、サラッとした質感が上品で、カジュアル過ぎない。普段でも仕事でも色んな場面で使いやすいところも気に入っていて、着ている時の満足感が高い。ちょっと値段は張りますから、何枚も買えませんけど。
ですが、一度その心地良さを体感してしまうと、私の場合は「次もウールにしようかな」と、ついつい贔屓(ひいき)にしてしまう。これが価格に見合った価値なんだと思います。
その価値は心地良さだけではなくて、デザインもあると思いますが、素材メーカーの取材をしていると、一番のアピールポイントは心地良さ。それが共通のように感じました。おそらく、デザインと比べると価値を明確に伝えやすいからだと思います。
■アピールポイントは“心地良さ”
今回は8社の素材を紹介しました。内容は合繊、天然繊維の素材、加工技術など様々ですが、いずれも触れた時、着た時の着用感の心地良さを重視する傾向が強い。それは前回の特集(3月2日掲載)から続いています。
心地良い素材はもちろん天然繊維だけではありません。今や、合繊なのに天然繊維と見間違えるほどの外観、質感で、かつ高機能という素材が数多く世に出ています。もともと天然繊維を目指して開発されてきた合繊は、今も進化を続けている。注目していただきたいと思います。
心地良い着用感をもたらす、欠かせない機能の一つが伸縮性。東レの「プライムフレックス」は軽く、快適な伸縮性を備えています。ポリエステルとナイロンのタイプがあり、優れた繊維加工技術によって、繊細な滑らかさや柔らかいタッチを実現。機能性だけでは響かないファッション用途としても注目されているようです。
帝人フロンティアのPTT(ポリトリメチレンテレフタレート)繊維「ソロテックス」も適度な伸縮性と形態回復性が特徴。今回はナチュラル感(天然繊維調)を強調した新素材「ソロテックスリベルテ」を発表しました。従来の物より伸縮性が向上した上に、自然な膨らみ感がポイントです
ユニチカトレーディングもナチュラル感を追求しています。「ジュフィーM」は6枚の葉が円形に連なったような“六葉型”の特殊断面ポリエステルを活用した素材です。特殊断面によって起こる光の乱反射で、優れた発色性を備えています。シルクのような質感も特徴。後加工の工夫で麻のような風合いも出せるそうです
クラレトレーディングはシンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂を用いた繊維「エプシロン」を開発しました。樹脂そのものが高い疎水性を持ち、撥水(はっすい)性に優れています。熱にも強く、アイロンによる家庭でのケアにも対応できると言います。
カワボウ繊維は、木材を主原料とするパルプを活用する“半合繊”のトリアセテートを使った素材が得意です。トリアセテートはシルクのような光沢と深みのある色を出せる点が特徴で、ウールを組み合わせて上質感をプラスした一格上の商品企画を提案しています。
■天然繊維は清潔さを重視
コットンを中心とした天然繊維を主力とするメーカーからは、“清潔さ”をキーワードにした素材が一押しです。コロナ禍を経て、身の回りの環境をきれいに整えておきたい、という意識が定着したことが背景にありそうです。
日清紡テキスタイルのコットン製不織布「オイコス」は、ジェット水流のみで繊維を絡ませて作るスパンレース法(水流交絡法)による日本製の不織布。ソフトな肌触りや、へたりにくい実用性の高さがおしぼり用の素材として好評です。
オイコスを使ったおしぼり「めんです」は、東海道新幹線のグリーン車で長年採用されていることで知られていて、来年で発売から30年が経つロングセラー。昨年は防災用途を想定し、ウェットタイプで大判サイズの「5年保存コットンボディタオル」と、ヒノキの香りによるリラックス、リフレッシュ効果と抗菌性を持つ「ヒノキおしぼり」を発売しました。
上質なタオル用の国産綿糸で知られるKBツヅキは、細菌の増殖を防ぎ、「家庭洗濯200回後も抗菌機能が持続する」という抗菌機能加工を開発しました。生乾き臭の原因菌と言われるモラクセラ菌など複数の細菌に対応するそうです。
一方で、シキボウがアピールしたのは、アップサイクルの仕組み「彩生」(さいせい)。これは、サステイナビリティー(持続可能性)の潮流を背景に、「単純な廃棄を減らしたい」と考えるアパレル企業から注目を集めています。
彩生はグループ会社の新内外綿(しんないがいめん)が、裁断くずや残糸、落ちわたなどを取引き企業から集め、反毛(はんもう)というプロセスを経て、再び糸にする仕組み。彩生はコットン製品に限らず、様々な組成の素材に少量でも対応できることが強みです。
以上、気になる素材はありましたか?あなたのブランド、商品にとって最適な素材が見つかれば幸いです。
こぼり・しんじ 大阪支社編集部・記者。2007年入社、大阪支社でスポーツメーカー、小売業を担当。2012年に東京本社へ異動。翌年以降、川上分野を担当。副資材、合繊、商社、経済産業省を担当し、2020年に大阪支社へ。現在は紡績をメインに担当。滋賀県出身。