児島ジーンズストリートの元気店 産地の魅力が伝わる店作り

2020/10/10 06:27 更新


 岡山県倉敷市の児島は、メイド・イン・ジャパンジーンズの産地として世界的に知られる。観光スポットの一つとしてジーンズショップが集積した「児島ジーンズストリート」があるが、その中には桃太郎ジーンズ味野本店、ビッグジョン児島本店のように、地方で驚くほどの売り上げを見せる店がある。〝ジーンズの産地にある店ならでは〟の店作りや接客を重視することで、客の購買意欲をかき立てている。

(小畔能貴)

桃太郎ジーンズ味野本店

■年商が過去最高に

 桃太郎ジーンズ味野本店は、ジャパンブルー(岡山県倉敷市)が主力ブランドの1号店として06年にオープンした。3軒が連なった長屋の建物を、売り場面積約100平方メートルの趣のある路面店にした。同店の前期(20年2月期)の年商は過去最高となる1億9100万円。東京や大阪などで展開する直営店と比べても、断トツの売上高を誇り、主力アイテムのジーンズが絶えず売れ続けている。

 「全店の中でもここはブランドの入り口。キャリアを重ねたスタッフがブランドの魅力を的確に伝え、売り上げの半分以上をジーンズが占めている」と原田将光店長。「桃太郎ジーンズをはきたい人が、『1本目は本店で』と遠方からやって来てくれるケースも多い」と振り返る。

主力のジーンズが真夏も中心に売れる桃太郎ジーンズ味野本店

 来店客の半数以上は県外からで、ジーンズ好きの男性客が7~8割を占める。特に40歳前後が多い。「ジーンズストリートに来たのだから、やっぱりジーンズを買いたい」とテンションが高い人も少なくない。こうした客に対し、商品や店を存分に楽しんでもらうスタンスで接客している。

 店内は、バックポケットにアイコンとなる2本線が入った出陣レーベルをはじめとしたジーンズを、サイズ展開も含めて豊富に品揃え。本店限定のデザインがあるほか、オプションでペイントによるジーンズカスタムも楽しめる。ペイントカスタムは本店以外でも出来るが、本店限定の色がある。スタッフが精力的に素材や織機などブランドの物作りに対するこだわりを伝えることで、客のテンションはさらに高まる。

2本のラインが象徴的で人気の出陣レーベル

■ジーンズ以外のまとめ買いも

 ジーンズを買ってくれる客にジーンズプラスアルファの需要を狙うため、「なるべく店内を回遊してもらうことを働きかけている」。ジーンズ以外にも、キーホルダーやコインケースといったデニムの小物、オリジナルドロップなど、お土産としても使えるものを用意している。これらのまとめ買いを促し、セット率や客単価の向上にもつなげている。

 年間の平均客単価は2万5000円。直営店の中で一番の金額を誇る。猛暑日が続く夏場でも、本店はフルレングスジーンズの売り上げ構成比が半分以上を占め、高い客単価を維持している。

 今年はコロナ禍で、昨年度は2割近くを占めたインバウンド需要が減るなどの影響があるが、6月度は前年比11%減まで回復し、7月度は前年を上回った。8月からは本店のみでの新サービスをスタート。遠方でなかなか来店できない、または外出を控えたい人向けに、商品を送って試着してもらうもので、申し込みが徐々に増えている。

今後、原田店長は「ECが広がった中で、リアル店舗の強みをさらに磨くことが大事」ととらえている。「ブランドや商品のこだわりをもっと効果的に伝え、ここで買うだいご味を味わってもらいたい」と続ける。

「ブランドの物作りに対するこだわりも的確に伝える」原田店長

ビッグジョン児島本店

■物作り実演やワークショップ

 ビッグジョン(岡山県倉敷市)のビッグジョン児島本店は17年春に660平方メートルの大型路面店としてオープンした。「児島を活性化したい」と言うように、ジーンズファクトリーをイメージした店作りが特徴で、店内で実際にスタッフがミシンを踏んで物作りを実演するほか、インディゴ染めなどのワークショップによる〝コト提案〟にも意欲的だ。ジーンズをはじめとする多彩なデニムアイテムを詰め込んだ品揃えも魅力で、売り上げを伸ばしている。

 オープン当初は広さを持て余したこともあったが、現在は産地にあること、本社と近い距離感を生かし、様々な見どころを盛り込んだ店作りをしている。例えばミシンを設置したスペースでは、職人が児島本店限定で提案するオーダージーンズを縫ったり、デニム雑貨を生産する場面などを間近で見ることができる。リメイクもしており、この店でしか買えない一点物商品が店内には並ぶ。「店内にミシンの音が響くと、思わず立ち止まって見入るお客様の姿がある」と言う。

ジーンズをはじめ雑貨も充実しているビッグジョン児島本店

 現在はコロナ禍で予約制になっているが、ワークショップ形式のコト提案が充実しているのも特徴だ。インディゴ染めやペイントなどの加工体験をはじめ、デニムのベルトループを使ったストラップ作りも楽しめる。レーザー加工機も置いてあり、客が持ち込んだ写真データなどをデニムアイテムに表現することも可能だ。

 こうした物作りを味わえる提案は、ジーンズ産地の児島に来たことを実感できることから人気が高い。遠方からもそのコンテンツを目当てにした来店がある。家族連れや友人同士でも楽しめるものも多く、再来店にもつながっている。

店内で職人がミシンを踏む場面も見られる

■デニム雑貨も充実

 品揃えはジーンズをはじめ、様々な年代の人が楽しめるデニム雑貨が数多く揃う。雑貨は、「生活のいろいろな場面でデニムを取り入れた提案がしたい」という考えから強化したもので、ほとんどが直営店でのみ販売している物だ。デニムのアクセサリーやトイレットペーパーホルダーなど多種多彩で、卸をしていない分、値頃感も強く人気がある。

 今後の店としての目標は、「さらにコトの提案を充実すること」だ。「一つひとつのコトをもっと面白く出来るはず。この店に来ること自体を、観光のような特別な感覚で楽しんでもらえるぐらいになりたい」と話す。

 SNSでワークショップを楽しむ客の姿を意識的に発信することで、これまでも小学校の修学旅行団体を相手にジーンズの魅力を伝えたり、企業の研修先としてジーンズの歴史を講義する機会が生まれた。「コロナ禍で思い通りに進まない面もあるが、団体向けに児島をもっと知ってもらえる取り組みの実現も増やしたい」と言う。

人気のインディゴ染めのワークショップ

(繊研新聞本紙20年9月4日付)

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