《めてみみ》赤いブレザー

2021/03/08 06:24 更新


 毎年、この時期になると店長は赤いブレザーをたんすから取り出す。今年でもう10回目だ。

 ダイエーではかつて、優秀な店長の中からさらに優秀なチャンピオン級の店長を選定し、創業者の中内㓛氏から赤いブレザーを贈られた。幅広い項目で、厳しい要件を満たした者だけが認められる特別な称号。赤いブレザーはその象徴だ。全ての店長が目指し、まだ店長でなかった彼も〝いつかは自分も〟と憧れていた。しかし、店長に昇格したころには制度は廃止されており、中内氏も亡くなった。

 10年前の3月11日、東日本を巨大地震が襲った。その夜から、ダイエー仙台店では店長を先頭に十数人の正社員が泊まり込みで復旧に当たった。開いてる店は1店もなく、おにぎり一つが何千円という怪しげなワゴン車も出没していた。地域の人々のために「一刻も早く店を開けなければ」との思いで必死だった。本部から運ばれてきた緊急物資をバケツリレーで運び、余震が続く中、棚に並べた。営業再開はコンビニさえ開いていない13日朝。開店前に1000人が並び、口々に「ありがとう」と感謝してくれた。

 「会長(中内氏)が生きていたら、〝よくやった〟と言ってくれただろうか」。中内氏から着せてもらうことはできなかったが、赤いブレザーは自分が自身に贈ったチャンピオンブレザーだ。



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