奈良県三宅町の鈴木靴下は今夏、EC事業や自社ブランドの発信拠点となる新社屋を開設した。オープンに合わせ、著名映画監督の監修のもとで、プロモーション動画も作成した。米作り、米ぬか繊維の開発物語、製品ができるまでの工程を丹念に紹介する。
製造工程では編み立て現場のほか、糸のナイガイテキスタイル、染色の茶久染色、撚糸の豊田撚糸、セットの川村靴下セットなどの中堅・中小企業が登場する。物作りに関わる仲間を大切にしていこうとする企業姿勢が感じられる動画だ。
その後、別の靴下メーカーで厳しい話を聞いた。原燃料や電気料金、人件費などの上昇を背景に、OEM(相手先ブランドによる生産)中心である同社の事業採算は悪化する一方。そうしたなかで、最終小売価格を上げるとの〝朗報〟が届いたという。工賃も一定上がるだろうと、商談に期待を寄せた。
ところが、である。ふたを開けると工賃アップは値上げ分の5%程度。95%が発注先のアパレルと小売店の取り分になる。計算すると、収益改善どころか電気代の上昇分にも満たない。「これが現実なんですね」。川上から川下まで厳しい状況にあるのは理解できるが、短期的な収益の追求は、サプライチェーンをさらに疲弊させる。自己中心の姿勢が過ぎれば、いずれ我が身にも跳ね返ってくる。