《めてみみ》「思惑通り」の終わり

2024/06/18 06:24 更新


 取材でも買い物でもよく訪れるセレクトショップの店頭である日ふと気付いた。10年以上販売している定番のチノパンの生産国がベトナムに変わっていた。何年か前まで「メイド・イン・ジャパン」であることがその品番のアピールポイントの一つだった。

 直後に開催された展示会で、仕入れ担当者に話を聞いた。同じ工場でずっと作り続けてきたが、原燃料価格の高騰の影響で、国内生産ではこれまでの小売価格を維持できなくなった。長い付き合いの工場だったが、双方これ以上は取引を続けられないと判断した。

 やむなく、ベトナム生産に切り替えた。パターンも生地も副資材も変えずに作ったので、かつての日本製と比べ遜色ない出来映え。価格も据え置くことができた。しかし担当者は「それも長くは続けられない」と話す。

 大幅な円安と、生産国自体の経済成長を背景に、23年の輸入アパレル製品の平均価格は20年に比べ3割値上がりした。ベトナム生産にいたっては3年間で平均価格が34%上昇した。次シーズンの値上げは不可避だ。

 日本のアパレル輸入浸透率は98%を超える。安い労働力を求めて生産地移転が進んだ結果だ。国内生産回帰は現実的ではなく、三十数年ぶりの円安で、海外生産のコストもこれ以上抑えようがない。作る場所も価格も日本の思惑通りにできた時代は終わりつつある。



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