《販売最前線》モードで通用するPBに挑戦 三越伊勢丹の新ブランド「ルーガ」
販売員が企画に参加 ブランディングで協業
(繊研 2015/10/20 日付 19339 号 8 面より)
百貨店でモード服のPBを作ることができるか。三越伊勢丹がこのテーマに挑んでいる。8月に伊勢丹新宿本店の自主編集ショップ「リ・スタイル」などで立ち上げた新PBの「ルーガ」は、外部との協業など従来とは異なるアプローチで開発を進めた。一般的に小売りのPBというと粗利益を追求したものが多く、高感度な消費者にはブランド物の〝廉価版〟といったイメージを持たれがち。ルーガの取り組みが一定の成果を出せば、百貨店PBの新しい可能性が見えてくる。(藤川友樹)
原価率を上げ高い価値提供
リ・スタイルなどでは今までも三つのPBを展開していたが、売り場の担当バイヤーが買い付けなどと並行しながら、工場と直接取り組んでいるものだった。また、セレクトした商品を補完する役割のアイテムが多く、テイストやプライスラインにばらつきがあり、「プロパー消化率が低く価値を提供できていなかった」(関係者)という。
そこで今年4月、リ・スタイルを中心とする同社のモード向け自主編集売り場にPB専任のバイヤーを置き、既存のPBを一本化して新ブランドを開発することを決めた。
専任バイヤーに選ばれた岩下えりささんが目指したのは、既存のPBが持つイメージを覆すこと。「PBとしてではなく、新ブランドがデビューしたと感じてもらえるように」と、ゼロベースから企画を立案していった。
商品数はトータルコーディネートを組めるようにするため、単一のPBとしては多い、約25の型数を企画。アイテムはベーシックでどんな商品にも合わせやすいものと、トレンドを追ったものの2ラインで構成した。リ・スタイルで展開しているブランドのデザイナーと組むことで、デザインや素材の質を高め、これまでより価格を約5割引き上げた。その一方で原価率は従来のPBを含め百貨店の一般商品より数%高めに設定し、商品価値を高めた。
売り場の声を吸い上げ提案
商品企画の過程で徹底しているのは、売り場のスタイリスト(販売員)の声を吸い上げること。購買データからは見えてこない今の店頭での客の気分や潜在ニーズを反映した新しい提案を行うためだ。展開するアイテム、素材、色、投入時期、販売価格などを決定する打ち合わせやトワルチェックには、各店から選んだ売り場のスタイリストやマネジャー約10人のうち2、3人が必ず出席している。
今秋はさっそくのこの仕組みが威力を発揮。店頭の声を反映して投入したニットベストがヒット品番となった。
ルーガのアイテム選定は、まず岩下バイヤーが練ったものをたたき台に、スタイリストらが意見を出し合う形式。この最初の段階では、大きなトレンドではなかったためニットベストが含まれていなかったが、リ・スタイルの宮崎真理アシスタントセールスマネージャーは、「昨年の秋冬に一部コレクションでニットベストが出て、スタイリングに取り入れるお客様が増えている。店頭で提案できずにもどかしい」と同アイテムを強く要望。着丈やカッティングといった細部のデザインから値段設定まで議論を重ねて販売したところ、すぐに売り切れ追加発注するヒット品番となっている。
単独でルックブックも作成
とはいえ、店頭の声を商品に反映するだけでは従来のPBとたいして変わらない。注目できるのは、ブランディングで外部と協業したことだ。ルーガでは博報堂の子会社シックスを軸にしたメンバーと合同チームを結成し、ルーガのネーミングやコンセプトメーク、ロゴ作成などに取り組んだという。
岩下バイヤーがスタイリストらと構想した品揃えやテイストをもとに、コンセプトは「着る人を語る服」、ブランド名はスワヒリ語で「言葉」を意味するルーガといったように、イメージを約1カ月かけて言語化していった。考案過程では、「自分なりの価値観に合うかどうかを大切するお客様には、たとえ商品力があっても哲学のないPBはマイナスの先入観を持たれている」(担当者)との前提に立ち、ブランドの思想や世界を表現できるよう、チーム内で議論を重ねたという。
そうして具体化したコンセプトや世界観を伝えるため、PBとしては珍しいルックブックも作成。期間限定の単独ショップを開く際には売り場で流す音楽や並べる本のセレクトにもこだわった。
狙い通りの反応5年後10億円を
8月のデビューから約2カ月が経ち、販売は好調だ。これまで扱っていた三つのPB合計と比較すると仕込んだ商品量は減っているが、売り上げは約1・5倍のペース。「どこのインポートブランドですか?」といった問い合わせや、ルックブックを見て電話注文してきた客もいて、狙い通りの反応が出ている。山下賢二婦人・子供統括部婦人第一商品部長は、「デビューしたばかりでアイテム数も最低限のため評価はしづらいが、立ち上がりとしては及第点」とする。
吸い上げる意見が特定の売り場に偏ってしまっていたり、店舗によって必要とされるサイズ展開が異なることなど、新たな課題も見えてきた。これらを修正し、16年春夏はまずアイテムを40型に増やす計画だ。
そして、5年後には年間10億円の売り上げ規模にし、将来的には婦人服の枠に留まらずシーンやカテゴリー、アイテムを拡大する構想を持つ。
■ルーガ 海外デザイナーブランドを購入している顧客に向け外部のディレクターやデザイナーと組み、上質素材を使ったアイテムを開発する三越伊勢丹の新PB。8月中旬に伊勢丹新宿本店3階に期間限定で単独ショップを開き本格的にデビュー。その後は同店のほか、三越銀座店や丸井今井札幌本店などの自主編集売り場で販売している。