まずは、こちらの写真を。
やはり本物の人間には見えないが、マネキンのようなこの普通のおじさんやお姉さんたちは高さ20センチ。「あなたの自分人形はいかが?」。英国の大手スーパーマーケットチェーン、アズダによる、そんな新商品のサンプルである。
その名も「MINI ME」。写真のプリント事業をおこなっているアズダ・フォトが5月30日にスタートしたもので、3Dスキャナーと3Dプリンターを使い、お客さんが自分のフィギュアをつくれるというもの。1体60ポンド(約1万円)。
ハンドスキャナーによるスキャンは2分程度でできるが、なにせ、エッチらホッチら気が遠くなるような回数で少しずつセラミックを積み上げて形成する3Dプリンターによる制作なので、出力に15時間かかる。そこで、納品は2週間後。顔かたちや体型はもちろん、服や靴の色もそのままミニサイズで再現される。
まだ実験段階らしいが、ヨークとエディンバラの店舗に常設サービスが設置され、その他特設ブースが全国の支店を巡回している。まさに、時代は3Dポートレートへ、ということらしい。
でも、はたして誰がどういう目的で3Dポートレートを作るのだろうか。写真サービス店で人気のTシャツやマグカップへの写真プリントは、相手の写真をプリントした誕生日プレゼントなどに重宝されているが、MINI MEは本人が赴かなければならないので、それは難しい。
子供が得意げに友人に見せびらかす姿は想像がつく。でも、日本円にして1万円はおもちゃにしては高い。ちなみにフィギュアの高さは基本的に20センチだが、子供用に小さくしたり、台座をつけるなどのカスタムサービスも行っている。親子でつくって並べた時に同じ縮尺じゃないと、ぞっとする。
ファッション界でも3Dプリンターを活用した商品が話題をよんでいる。実際にプリンターが出力する様子を見たのは、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションのギャラリーで開催された展覧会。もう2年ほど前になるだろうか。そこには、3Dプリンターで作られた靴やメガネ、指輪などのアクセサリーが展示されていた。
先日は、世界はじめてという3Dプリンターでつくった帽子の新作が発表された(写真下)。ロンドンのベテラン帽子デザイナー、ガブリエラ・リゲンザが、3Dプリンターの専門家との協業でつくった2014-15年秋冬コレクションで、一面に詩を綴ったウエディングハットなど、エレガントなデザインが揃った。
どの商品も、現在の出力スピードとコストでは一般化は難しそうだが、きっとあっという間にそんな問題もクリアされるのだろう。
話は自分人形に戻るが、これは人々が皆欲しがるものなのだろうか。ウエディングの記念ポートレートなどはありかもしれない。
もっとも、フェイスブックやインスタグラムで自分の写真をどんどんあげる今時の流れを見れば、自分人形は子供だけなく大人にも十分需要があるようにも思う。でも、写真のように何枚か撮影していい物を選ぶということは難しいので、多少のリタッチをしてもらえればなおさら嬉しいだろう。
でも、もしストーカーされている人から、その人の人形が送りつけられてきたりしたらどうします? 夜中に人形が突然倒れたら、その場に1人で居られます? 人形にはかわいさと恐ろしさが共存する。リアルなものならなおさらだ。ファッションモデル同様、人形もバービーやブライスのように現実からかけ離れていた方が、夢があっていいように思うのだが・・・
あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員