編み棒を操るギャングたち(若月美奈)

2013/11/18 13:13 更新


他都市同様ここロンドンでも、デザイナーコレクションが一段落した10月末から11月にかけて、PRエージェントがジャーナリストやスタイリストを招いて扱いブランドの新作を見せる展示会、プレスデイがいっせいに行われる。自社内で開催するところや、イベント会場を借り、ドリンクやフードを提供したり、夜にはDJ入りのパーティーまで行うところもある。

プレスデイはショーで見た服や小物の素材やディテールを再確認する答え合わせの場であり、ショー後のブランドの状況や現在進行中のプロジェクトなどを聞く、プレス担当者との社交の場。そして、数多くのブランドを扱う大手エージェントでは、毎シーズン必ず1つや2つ、興味深い新しいブランドとの出会いがある。新ブランドだったり、新コラボプロジェクトだったり、ブランドとしては新しくはないけれどそのエージェントが新規に扱うことになってはじめて知るブランド。そんな「拾い物探し」が、プレスデイ巡りの一番の目的かもしれない。

今シーズンの拾い物は「ウール・アンド・ザ・ギャング」。ケイティ・アーリーなどの新進デザイナーから、ティンバーランドのようなアウトドア系、ウエアハウスなどのファストファッションブランドまでを広く扱うアイピーアール(IPR)の一角に、なんだか素朴で、でもキャッチーなハンドニットのジャケットや小物が並んでいた。それがこのブランド。手に取って見ていると、プレス担当のトッドさんがやってきて、バックグランドを説明してくれた。

 


プレスデーでさりげなく目立っていたウール・アンド・ザ・ギャング


セントマーチン美術大学で出会い、その後アレキサンダー・マックイーンとバルマンで経験を積んだ2人の女性デザイナー、オーレリー・ポッパーとジェイド・ハーウッドが、元モデルで世界中を旅する編み物好きのリサ・サブリエと組んで4年前にはじめたハンドニットブランド。

工場生産に背を向け、「ギャング」と呼んでいる世界中に散らばるニッターたちが家でハンドメードしている。つまりホームマニファクチャリング(家内工業。というより、内職といったニュアンスだろうか)。ギャングはサイトなどを通じて募集し、このほど500人の応募から新たに50人を採用したそうだ。なんだかこう書くと、ビジネスも手作り感があるが、今年夏にはベンチャーキャピタルが多額の投資を行い、企業としても成長している。

プレスデイのお土産にこの「ウール・アンド・ザ・ギャング」の商品がはいった紙袋をいただいた。マフラーの写真が貼っていあるので、中にはマフラーが・・・と思いきや、出てきたのはペルー産の毛糸とものすごく太い編み針、そして編み方と縫い針がはいった封筒。そう、自分で編んでください! というわけだ。「ウール・アンド・ザ・ギャング」は、自分で編みたい人のために、こうしたキットも販売している。

 


自分で編みたい人のためのニットキット 


こんなクラッチバッグも。がっちりと固く、口に強力なワイヤーがはいっている


そういえば、先日も似たようなブランドに出会った。英国産のアルパカの毛糸を、キット販売をしているスコットランドの「アルパカロフト」。自分では編めない人のために編み上がった商品も販売している。こういうの、ちょっとしたブームのようだ。そう、英国産のアルパカ。20年前に貿易が自由化されて、ペルーからやってきたアルパカくんたちが英国各地の農家で飼育されているが、絶対数が少ないため産業には至っていない。でも、こんな形で少しずつ広がっている。このアルパカの話も是非紹介したい古くて新しい英国の一面。次の機会に。



あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員



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