「エルメス」のメンズイベント「ステップ・イントゥ・ザ・フレーム」に行って来た。メンズの世界観を伝えるイベントは時々世界各地で開催しているそうだが、今回はロンドン、というよりもヨーロッパで初めての開催となった。
2019年春夏のショーと、オランダの漫画家ヨースト・スワルテのコミックブックの世界をテーマに様々なアトラクションが用意されたパーティーの2部構成。その概要については3月29日付の本紙をご覧いただきたいが、追加情報を少々。(記事はこちらから≫≫エルメス ロンドンでメンズイベントを開催)
まずはショーに登場したセレブモデル。 日本人にとっては、俳優の本木雅弘さんとエッセイストの内田也哉子さんの長男であるUTA(ウタ)君の登場がトピックとなった。
昨年もコムデギャルソンのショーなどに出たことがあったが、今回の「エルメス」は、直前に亡くなった祖父の内田裕也さんも楽しみにしていたそうで、自分に何があってもショーには行くようにというおじいさんの言葉もあり、キャンセルすることなくロンドンにやって来た。
ちなみに本木雅弘さんは来場する予定だったが、さすがにキャンセルとなったそうだ。
一方、「U2」のベーシスト、アダム・クレイトンさんの登場には、会場から拍手が湧いたが、現地で話題となったのも実は2世モデルだった。元「オアシス」のリードボーカル、リアム・ギャラガーさんの長男、レノン・ギャラガー君である。うーん、なんとも眉毛がお父さんにそっくり。母は女優であり歌手のパッツィ・ケンジットさん。現在19歳のレノン君は、有力エージェンシーのモデルズ1と契約し、すでに雑誌などの仕事をしている。
パーティーでは人気ロックバンドの「プライマル・スクリーム」がサプライズライブを行うなど、やはり音楽とファッションの関係がロンドンらしさを印象付ける。
さて、前置きが長くなったが、実は今回紹介したいのはこのイベントが開かれた会場である。招待状が届くまでは「内緒」とされていたその会場はテムズ川南岸のバタシーにあるオールド・ソーティング・オフィスだった。
ここでファッションイベントが開かれるのは初めて(だと思う)が、ロンドンのメンズコレクションに詳しい人には、とても聞き覚えのある会場名である。
ソーティングオフィスとは、ロイヤルメール(以前は政府機関の郵政省の管轄で現在は民間企業となった郵便事業を営む会社)の郵便物の仕分け場。ロンドンの各地に巨大な施設を有していたが、手紙がEメールに取って代わられるようになったこの10年で、その多くが閉鎖された。
再開発によりオフィスビルや高級マンションなどへと姿を変えているのだが、売却されてから工事が始まるまでは、その多くがイベントスペースとして貸し出されている。
2012年に発足したロンドン・メンズコレクションは、ロンドンの中心地のホルボーン地区にある旧ソーティングオフィスが公式ショー会場となっていた。「次の会場どこだっけ?」「ソーティングオフィスだよ」と言った具合に、日本から来るジャーナリストやバイヤーにも、慣れ親しんだ名称だった。
もっとも、いよいよ再開発工事が始まり、2015年6月を最後に使用できなくなってしまった。
昨年末にもオールド・ソーティング・オフィスの名称の会場でファッションイベントが行われた。「バーバリー」と「ヴィヴィアン・ウエストウッド」のコラボ記念パーティーで、こちらはチェルシー地区の旧仕分け場。この会場では、今年2月のロンドン・コレクションでも、「アウェイク」がショーを行った。
そして今回の「エルメス」のイベントが行われたバタシーは、テムズ川を超えるとあって中心街とは言い難い、決して便のいい場所ではない。ところが、今この地区の再開発がどんどん進み、高級マンションが次々と建設されている。場末感のあった駅もぐっと綺麗になった。
というのは、昨年初めにアメリカ大使館が、一等地のメイフェアからこのバタシーに移転したのである。
移転発表から10年。紆余曲折もあり、オープニング時にもトランプ大統領が、「オバマ前大統領が一等地にある旧大使館を二束三文で売却し、12億ドルかけて街はずれに新大使館を建てたことが気に入らない」とツイートし、来英をキャンセルするというハプニングもあった。
まあ、それくらい当初は「場末」だったのだが、2012年に隣のソーティングオフィスが閉鎖され、1000戸と言われる高級マンションが相次ぎ建設され、街の様子が変わった。今回の「エルメス」のイベントは、新築マンションに囲まれたその一角で行われた。
近くにはもう1つ再開発が進む歴史的な建物がある。旧火力発電所だ。閉鎖後、オーナーが何回も変わり、テーマパークになるなどの計画が幾度となく発表されたが、現在はアイコニックな4つの大きな煙突はそのままに、高級マンションとオフィスが入る建物への再開発が進められている。ちなみに、ここにはアップルの新ロンドン本社が入るらしい。
うーん、バタシーが熱い。でも、やっぱり遠い。というわけで、正直な話をすると、新アメリカ大使館の建物を見たのは今回が初めてだった。素敵な一夜に加えて、いい機会を与えてくれたエルメスさんに感謝!
あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員