英国を見にパリへ行く(若月美奈)

2014/03/14 13:50 更新


今シーズンもパリへ行った。パリ・コレクション中盤の土曜日。4時半に起床して6時18分の始発のユーロスターに乗り込み、9時45分パリ到着。20時13分パリ発、21時39分ロンドン着の終電で戻る。このところ恒例となっている強行日帰り取材である。ハンドバッグ1つで身軽に展示会をざっと30〜40ブランドを取材する。パリコレクションに参加しているブランドのショーもちろりと拝見させていただいているが、目的は英国の新進デザイナーだ。

ロンドン・コレクションでショーをするブランドのほとんどが、その後ロンドンではなく、パリでバイヤー向けの展示会を行うため、ショーの追加取材はパリへ行かないとできないのである。加えて、パリでプレゼンテーションを行う英国ブランド、パリだけで新作を発表する小物の新進ブランドもある。

朝一番のアポはピーター・ピロット。午後は本命のクリストファー・ケインとJWアンダーソン。ロンドン・コレクションを主催する英国ファッション協議会が18の新進ブランドを集める「ロンドン・ショー・ルーム」や、ピーター・イェンセンやマザー・オブ・パールなど日本でも人気の英国ブランドが数多く揃うショールーム「ポリー・キング」を回り、合間に毎回パリでプレゼンを行っているイサ・アルフェンもチェック。ルックブックやプレスリリースでずっしりと重くなったハンドバッグと200枚の写真とともに22時30分に帰宅した。

 


 展示会取材では、まずは素材をチェックする。ピーター・ピロット(写真下)の遠目には幾何柄や花柄にみえるプリントは、なんと新体操の選手たちの集合写真。スポーツとフォーマルの融合を試みたコレクションでの、意表をついた遊びに驚かされる。

 


 アールデコ調のプリントを得意とするホリー・フルトン(写真下)は、今回は無地やチェックのウール地に、レーザーカットしたウールやポリウレタンを手作業でボンディングして柄を描いた。そこにホーンでできたチェーンを加えて立体感を出す。ショーに出したのはすべてそうしたテクニックの新作だが、同じデザインをプリントで再現して価格を抑えたコマーシャルピースも揃えている。

 


ショーには登場しない同じシリーズの別商品や、コマーシャルピースが見られるのも展示会取材の面白さだが、JWアンダーソン(写真下)では新作全体の65パーセントがコマーシャルピース。あのコンセプチャルなショーからは想像もつかない、カジュアルなセーターなどがたくさん揃っている。

 


クリストファー・ケインは基本的にはショーでみせる新作を軸に、同素材のバリエーションがあるのだが、その数の多さに圧倒される。そして、それを買い付けているバイヤーの数も毎回増え続け、まさに満員御礼状態。

残念ながら撮影禁止のため写真を紹介できないが、今回は3枚重ねのスカーフが面白かった。ショーには花が浮かび上がるホノグラムをフロントにはりつけたドレスやトップが登場したが、花柄プリントの薄手のシフォンを3枚重ねることで、ホログラムと同じような視覚効果を出したもの。うーん、うまい!

そして忘れては行けないのが小物のチェックだ。ライアン・ローはスウェアと、ホリー・フルトンはアタランタ・ウエラーとのコラボで、はじめて靴をつくった。毎回アーティストとのコラボを行っているマザー・オブ・パールは、今シーズンはアメリカの刺しゅうアーティスト、リチャード・サハと組んだが、服だけでなく靴のコラボ商品もある。個人的に気になったのはJ・JS・リーのソールが四角くはみ出した男靴。ショーではここまで見えなかった。

 


ライアン・ロー(左)とJ・JS・リー(右)


などなど、書きはじめたら終わらないので今回はここまで。

そう、ロンドンのデザイナーに興味があるけれど、パリへ行くのでロンドンまで足をのばせないという方、ロンドンの新作はほとんど皆パリで見られるのです! 英国ファッションの輸出促進をはかるUKファッション・テキスタイル(ukft)は、パリ・コレクション期間中にパリで展示会を行う英国デザイナーブランドのマップを発行しているが、そこにはロンドン・コレクションに参加してパリで展示会を行う全ブランドを含む300以上が掲載されている。

もちろん、ショー会場には、その空間を共にした人にしか感じることのできないピュアなデザイナーのメッセージ、興奮や緊張感といったものあり、ショーのリポートを書くジャーナリストにとって、それは何ものにも代え難い大切なもの。でも、ロンドン・ファッション・ウイークの公式サイトなどで、事前にライブストリーミングによるショー映像を見て、直後に掲載される写真やリポートをチェック。その後パリで実物を手にしてみれば、後ろの席で上半身しか見えないような状況でショー会場にいる以上に新作を理解できる。新進デザイナーの展示会場にはたいていデザイナー本人がいて、直接説明を受けられるのも嬉しい限りである。

ちなみに、ショーの映像はライブでも録画でも理屈的には全く同じなのだが、これはライブに限る。今、同時に行われているものを見るという臨場感が、その作品への興味をより深いものしてくれる。

まるで、魔法のように・・・



あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員



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