海外への買い付け、視察などが本格的に再開しています。久しぶりの出張で手続きや持ち物、現地での過ごし方について、忘れていたり、変化していたことがあるのではないでしょうか。そこで、普段から海外出張に行き慣れており、いち早く海外出張を再開した業界の方々に、それぞれの旅の〝マイルール〟について教えていただきました。
デザートスノー代表 鈴木道雄さん
レジ袋一つ、身軽に
古着の小売り・卸のデザートスノーの鈴木さんは長年、海外古着の買い付けに携わってきたベテランバイヤーだ。主な買い付け先はタイとパキスタン。気温が高い土地の倉庫でのピック作業は過酷だが、掘り出し物を見つけた時の喜びには代えがたいものがある。
コロナ禍が落ち着いて以降、買い付けのために毎月出張している鈴木さん。航空券はカード会社を通して確保し、効率化する。落ち着いてはきたものの、渡航制限解除以降はかなり値上がりしているという。
現地にオフィスなどの拠点を設けているため、必要な物は用意してあり、持ち込む荷物は少なめ。レジ袋に貴重品だけを入れて飛行機に乗ることも多い。「ちゃんとしたバッグの方がスリなどに目を付けられ危険」という理由もある。
出張中は朝から深夜まで倉庫にこもってピック作業に追われる。倉庫内は非常に暑く、服装は短パンとタンクトップがほとんどだ。ただ、パキスタンでは肌を出すことをあまり良しとしないので、外ではTシャツを着るという。
食事は、タイでは屋台のトムヤムクンなど、パキスタンではカレーがメインだ。「世界規模のチェーン店ですらおなかをこわすことも。薬は必ず携帯する」。衛生面での注意も必要。
「大変なことも多いが古着の山からビンテージを見つけると舞い上がり、やる気が出る」と鈴木さん。「誰よりもたくさんの服に触れられるのがこの仕事の魅力」と胸を張る。
インターナショナルギャラリービームス・ディテクター兼バイヤー 片桐恵利佳さん
中心地よりローカルへ
18年にバイヤーになった片桐さんは、パリ、ミラノを中心に欧州で買い付ける。「インターナショナルギャラリービームス」は、ラグジュアリーブランドだけでなく、作り手の背景やコンセプトに共感した新進のデザイナーブランドの品揃えが特徴だ。日本初のブランドを扱うこともある。21年秋ごろから海外出張を再開。「お客様には洋服を通じて新しい発見をしてほしい」と、現地ならではの情報収集に力を入れる。
パリでは友人に会い、地元住民が通うレストランやカフェに足を運ぶのがルーチンだ。「ザ・観光地ではない所が好き」な片桐さんは、北東部の19.20区に注目している。最近は移住者や若いアーティストのアトリエも多く、23~24年秋冬から扱うハンドメイドのニットブランド「エドナ」もそこで出会ったという。
朝から晩まで展示会やショーを回るため、靴選びは重要だ。伊「フェランテ」のレザーのエスパドリーユを出張中のお供にすることが多い。柔らかい牛革のアッパーとラバーソールが軽い履き心地で、外履きだけでなく、飛行機内やホテルでも使っている。
カメラが趣味で、仕事用のスナップ撮影や街歩きの時はいつも2台持ち歩いている。美しい町の景観から欧州の環境配慮への意識を学んだり、伝統建築やアート、食、音楽にも関心が高い。現地で得たファッション以外の世の中の流れを、提案する服や店作りに落とし込むように心掛けている。
「ショウタヒヤマ」デザイナー 日山翔太さん
現地の生活・文化味わう
渡航経験があるのはアジア、欧州、北米、中南米など13カ国。文化や価値観の違いを学び、視野を広げるための旅やワーキングホリデー、バイヤー時代の買い付けなど渡航目的は様々だ。最近では今年2月にコレクション発表で渡米した。
現地では生地屋に行くようにしている。東南アジアの伝統的な柄や、ニューヨークのエネルギッシュでカラフルな生地など日本にはない「その国らしさ」があり参考になるという。
国立美術館やローカルなギャラリー、ナイトクラブなどには必ず行き、現地の人との交流を楽しむ。ブルックリンのはずれにあるクラブではメイクアップアーティストやフォトグラファーとの出会いがあった。
より現地の人と同じ生活を味わうため、2月のニューヨークではキッチン付きのマンションの一室を借り、スーパーやコインランドリーを利用した。シェアハウスなどローカルな滞在をしたい人には宿泊予約サイト「Airbnb」がお薦めという。
現地の民芸品を購入して身に着けるのが日山さんのこだわり。プロフィールの写真の帽子は、メキシコシティの路上で手編みしていたおばあさんから購入した。
2月はコレクション発表のためロケハンやリハーサルなど「ドタバタだった」が、メンバーとともに食事して過ごし「ショーの思いを伝えられる時間となった」という。「海外での出会いや体験を通して、心が豊かになっている」と振り返った。