存在感増す人の力 手間をかけて"他にはない"を作り出す
テクノロジーが進化する一方で、人が手間をかけて作った商品が一層、際立ち始めた。新しいハイテクノロジーが広まれば広まるほど、その存在感は増す。日本のデザイナーブランド「オーラリー」の人気の理由もそんな現状が背景にありそうだ。糸作りから加工や染色、縫製までこだわり抜いたシンプルウェアが、服好きを引き付けている。
袖を見ただけで違い伝わる服を
17年9月、オーラリーは初の直営店を東京・南青山に開店した。根津美術館近くの静かな地域にオープン直後の週末、大勢が押し寄せた。デビューから3年。セレクトショップを通じてファンになった人々だ。
服を売るのが難しい昨今、そのにぎわいは目を見張る。人気の理由は何なのか。
クルーネックのセーターからウールコートまで、装飾はほとんどない。しかし、細部まで気を使って設計した丁寧なフォルムと、手を掛けて作り出した独特な色や風合いが重なり、控えめでも存在感のある商品に仕上がっている。シンプルな服が市場にあふれるなかで、このニュアンスに価値がある。
デザイナーの岩井良太が目指すのは、「絶妙に他にはない感じ」。セレクトショップで、ずらり並ぶ商品の中でも「袖を見ただけで他とは違うと感じてもらえる服が作りたい」という。
独特の質感が人を引き付ける
最初の1年でヒットしたのは、ジャージーやスウェットのトップ。糸から選び、撚りや染め、加工の具合を調整した商品を、多くのバイヤーが買い付けた。
人気が続くスウェットトップは、目の詰まった固さがポイント。綿とアクリルを混紡した裏毛で、製品染めの後、縮絨(しゅくじゅう)をかけて固さを出している。迫力のある独特な質感を出すため、10種類のサンプルからイメージに近づけていった。内側は無撚糸で肌触りが柔らかい。試行錯誤を重ねた商品は、バイヤーやショップスタッフの間でも支持され、定番のヒット商品になった。
2年目以降はシャツも人気だ。18年春夏は、ギザ綿と呼ばれるエジプトの超長綿の中でも珍しいフィンクス綿で作った。高級素材をそのまま使うのではなく、「超細番手の糸を高密度の綾織りにして、樹脂のような薬品に付けて、たたいてくったりさせて…」。シルクのように滑らかでしっとりとした綿が作りたかったという。
素材へのこだわりを話し始めると止まらない。展示会でも商品一つひとつの成り立ちを丁寧に語ることで有名だ。「面白い原毛」から商品を発想することもある。そういうこだわりを求めている人は意外と多い。直営店の客層は20~50代と幅広く、男性客はうんちく好きの若者、女性客はモノの良し悪しがわかる大人が多く集う。
消化率の高さが好循環を生む
取引先の口座数は、メンズとレディス合わせて約100。ほとんどが初年度からの取引で、今は新規口座を増やしていない。売り上げはスタートから2年で劇的に伸び、落ち着いた18年春夏の受注額も前年同期比30%増。プロパー消化率の高さが次のオーダーにつながり、好循環を生む。その勢いに、驚きを隠せない同業他社が多い。
価格は日本のデザイナーブランド並みだが、「原価率はとても高い」。それでもプロパー消化率が高ければ、受注が増え、生産量が増え、売り手も作り手もウィンウィンで回っていく。「紡績から機屋、加工まで全てに手を掛けることで成り立っている。だから手を掛けなくなることは、うちではなさそう。手間を掛けるから、他と違うものができるんです」
「感覚合う人と好きなことを」
クリップクロップ小林社長
オーラリーを運営するクリップクロップは、ウールや綿の生地問屋。小林広文社長が提案するオリジナルのテキスタイルが好評で、デザイナーブランドやセレクトショップと取引が多い。「物作りが好きで、感覚の合う人と仕事をしてきました。岩井もその一人。いわゆるオタクです。彼は掘り下げるタイプなので糸も素材も全てオリジナル。そういうデザイナーは本当に少ないから、それがオーラリーの強みになっている。売り上げを増やし続ける必要はない。少ない人数で好きなことをやれればいいと思うのです」。テクノロジーが加速度的に進むなか、差別化は一層進みそうだ。
<新年特別号>ファッションビジネス革命前夜
繊研新聞は新年特別号で「ファッションビジネス・革命前夜」と題し、進化する技術がもたらす可能性にスポットを当てます。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)が発達するなか、それを使いこなして世界を広げる人間の力がますます重要になっています。変革を恐れず、未来を作ろうという人々に迫ります。