組織そのものを変更して
今年の全米小売業大会の2大テーマは、「オムニチャネル」と「ミレニアルズ」(19~35歳の世代)だった。そして、頻繁に出てきたキーワードは、ここ数年よく聞かれる「ディスラプト」(破壊)。オムニチャネルを実現しながらミレニアルズ世代を引き付けるには、今までの概念や習慣を壊して全く新しい発想で考える必要がある。
ホームショッピングネットワークのミンディ・グロスマンCEO(最高経営責任者)は「自分をディスラプトする気がなかったら、自分がディスラプトされる」と断言。アメリカンエキスプレスのケネス・チェナート会長兼CEOは「カニバライズ」(解体)という言葉を使い、「自分自身を解体する意志をもたなければならない」と指摘した。
もはや、従来の販路にとらわれていられない。実店舗の中にいながら、モバイルで決済する客が増えている。この場合の売り上げは店に属するのか、オンラインになるのか。既存店ベースの売り上げを計算することにどれだけの真実があるのか、といった話になってくる。購買行動の実態を把握し、それを数字に反映させるとなると、小売業の組織自体を変えざるを得なくなる。
個別から全体へ
ハドソンズベイグループのコーポレート戦略部門の元上席副社長で、その前はサクスフィフスアベニューでオムニチャネルやデジタルビジネスを担当し、現在はリテールスタートアップアドバイザーをしているシャーリー・ロミグ氏は、「販路ごとの売り上げからオムニチャネルとしての売り上げ(を算出すること)に移行し、各販路の成長率を測ることから全体の売り上げを測ることに移行しないといけない。そのためには、マーチャンダイジングも組織も変える必要がある。新たに競争が激しくなっている環境に焦点を当てるべきだ」と提言した。
ロミグ氏はオムニチャネルはエモーショナルにも大変と指摘。同意を得られても突然翻意されたり、答えられなくて憤然とすることがありがちになることを覚悟しないといけないのである。
ディズニー・コンシューマー・プロダクツは、オムニチャネル実現のためにEコマースと実店舗をすでに統合した。同社ディズニーリテール部門のポール・ゲイナー執行副社長は、「これによりオンラインの客から学んだことを実店舗の客に応用することが可能となった」と話す。
境界をなくす
オンラインとオフラインの境界をなくす一環としてオンラインで買って実店舗でピックアップできるようにする小売業が増えてきた。しかし今後、「家族や友達でもピックアップさせてほしい」「今日ネットで買って今日ピックアップしたい」「キャンセルはどうしたらいいか」などといった細かい要望に応える必要が出てくる、という指摘も聞かれた。
アメリカンエキスプレスのチェナート会長は、「プラスチック(クレジットカード)がなくなっても全然構わない」と明言した。確かに決済方法も多様化し、「昔はクレジットカードというプラスチック製のカードがあったんだよね」と言う時代が来るのかもしれない。
チェナート会長は、ミレニアルズ世代は特にモバイル決済やモバイルアプリを好むとみる。同会長は、「決済がシンプルなことがウーバー(スマートフォンを活用した配車サービス)の成功につながったと思う」と話し、「何が購買に影響を与えるのかがわかっていることが、大きな違いを生む」と語った。(ニューヨーク=杉本佳子通信員、写真も)