22~23年秋冬パリ・コレクション 多様性、持続可能性を意識したデザイン

2022/03/15 06:28 更新


 22~23年秋冬パリ・コレクションは終盤、ダイバーシティー(多様性)やサステイナブル(持続可能性)を意識したコレクションが相次いだ。ジェンダー(性差)を超えて、着たいものを着ても良いという風潮を後押ししているかのようだ。

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 世界中の男性ファッショニスタたちの叫び声が聞こえてくるかのようだった。ミュウミュウボーイズが帰ってきた。Y2K直前に勢いにのるミュウミュウから登場したメンズウェアに熱狂したのを覚えている。2000年春夏を思い起こさせる〝ショーツショーツ〟(英語で短いショーツのこと)でメンズモデルたちがランウェーに現れた。

 ボアをあしらったレザーのブルゾンにマッチしたレーザーのショーツ、ダブルベルトやチラ見えする切りっ放しのライニングのディテールはコレクションを通して使われていた。とはいえ、それがメンズなのか、レディスの大きなサイズかは分からない。ましてや男性モデルか女性モデルだったのかを判断するのが難しいアンドロジナスなキャスティングでもあった。ショー後すぐに写真や映像を拡大して確認。男性と思っていた1人は女性だと分かったがもう1人は謎のまま。チェックのオーバーサイズのダブルジャケットにスーパーミニのプリーツスカート、中にジップアップのニットカーディガンを合わせたモデルは男性だと思う。

ミュウミュウ
ミュウミュウ
ミュウミュウ

 レトロ調のテニスウェアのようなポロやスカート、22年春夏で注目されたヘソ出しやヒップハングは継承された。オーガンディのトップやベルテッドスカートにレースの切り替えとクリスタルで装飾したシリーズにも、男性と思えるモデルがいた。しかしながら、それが問題なのだろうか。ミウッチャ・プラダはこのショーを通して、誰もが着たいものを着るのにためらわなくて良い、ダイバーシティーな世の中を後押ししていると感じた。

(ライター・益井祐)

 シャネルから届いた巨大なツイードのボックスを開けると、そこには水辺のランドスケープ写真、中心には同じツイードを使った招待状がはめ込まれていた。英国に住んで20年、行ったことはないが、すぐその風景がツイード川なのだと認識した。クリエイティブディレクターのヴィルジニー・ヴィアールはツイード川に沿ってガブリエル・シャネルの足取りをたどった。

 川の流れのようにカーブしたランウェー、壁から座席に至るまでツイードで覆い尽くされていた。スタンドカラー、ダブルブレスト、ロング丈、さらにマスキュリンなオーバーサイズやテディベアとの組み合わせと、ツイードジャケットのバリエーションが続く。ポケットや襟元などリブの色を変えコントラストを付けたジャカードカーディガンに合わせたスカート、厚手のソックスや長靴を合わせれば、すぐにでも川沿いを散策したくなってしまいそうだ。

シャネル
シャネル

 バッグはツイードの共布やチェックなど他の柄とのコンビでひそやかに、または強めのピンクでその存在を主張した。世の中には絶対に間違わない組み合わせがあるが、その一つがシャネルとツイードなのだと再認識した。

シャネル

 デビュー以来、ボディーポジティブを提案し続けているエスター・マナス。コペンハーゲン、ロンドンと続いたファッションウィークでは多くのショーでプラスサイズモデルを起用した。ダイバーシティーはかなり広がったようにも感じるが、ラグジュアリーメゾンが多いミラノやパリになると、ゼロか取ってつけたように1人大きめモデルが混ざっているだけなのが現実だ。一つのガーメントが誰にでもフィットする「ワン・フィッツ・オール」のコンセプトは、初のキャットウォークショーとなった前シーズンにスモッキングを使ったデザインに進化した。ただ伸縮性のあるステッチを施しているのではなく、プラスサイズのボディーを考慮し胸やヒップにはエキストラの布でゆとりを持たせている。

エスター・マナス

 クリスタルやスパンコール、フェザー…。ケヴィン・ジェルマニエールによるジェルマニエールが華やかにパリ・コレクションの公式ランウェーにデビューを果たした。素材はすべて廃材やデッドストック、B品などのアップサイクル。数少ないドレッシー系のサステイナブルデザイナーだ。コートが初めて登場したほか、装飾素材をシリコーンで封じ込めたパッチの付いたデニムのようなカジュアルアイテムが加わるなど、コレクションはさらに充実した。見覚えのある足元は「アグ」とのコラボレーションだ。

ジェルマニエール

 ヴィヴィアン・ウエストウッドはピガールの裏道にある小さな劇場が舞台。会場前は興味津々のキッズたちとセレブ待ちのファンたちで騒然、入るのも至難の技だった。そしてウエストウッド劇は始まった。アメリカンフットボールのように巨大な肩のジャケット、片袖が床にまで伸びたカーディガン、フーディーのバックはトレーンを引く。デザインの一部が誇張された。ハーレークインの編み上げドレス、最後はピエロのようなマリエでベラ・ハディッドが登場した。劇の衣装のようとは言えるが結構ウェアラブル。90年代のアーカイブを思い起こさせるピークトラペルのダブルコートや美術館柄のスカーフドレスなど、より着やすいアイテムも登場した。ヴィヴィアンが壇上に上がると、孫娘のコラ・コレーも強制参加。モデルとして活動しているようで可愛くて仕方がないのだろう。

ヴィヴィアン・ウエストウッド

(益井祐)

 パリ・コレクション最終日の翌日、アンダーカバーは代々木第二体育館でショーを行った。東京での開催は1年ぶり。未来に対する希望を描いた前回とは打って変わって、今シーズンのコレクションはどこか退廃的で冷たく、怒りにも似た強い空気が感じられた。そこには今の世界情勢が影響しているのだろう。デザイナー高橋盾の心を突き刺す現実が形になった。暗闇の広い空間は、無音に包まれた。

 張りつめた空気のなか、グラマラスなフォーマルドレスが次々と登場した。体のラインに沿うビュスティエドレスやペプラムドレスの縦横にはゴールドのジップアップが這(は)い、パンキッシュな表情を描いていく。タイトなまとめ髪とダークメイクに、針金が四方八方に飛び出したようなアクセサリー。エレガントなブラックドレスなのに、何かを拒絶しているかのような強さがある。そこに鮮やかな赤やピンクがカラフルに加わっていく。コンパクトなライダーズジャケットに、ハイウエストのワイドパンツやロングドレス。エナメルやサテン、タータンチェック、ローゲージニットなど、フォーマルとパンクの素材が重なる。バルーンスリーブのミニドレスのベルトにはカミソリ型のバックル、フォーマルなパンツスーツの胸元にはピースマークのバッジなど、随所に反骨と平和への思いが散りばめられた。「心の奥底にくすぶるREBEL(反骨)の炎」を表現した。タイトルは「コールドフレーム」。

アンダーカバー
アンダーカバー

 ウジョーは、「テーラードの新しい息吹」をテーマに新作を作った。テーラーリングをベースに、抜け感のある軽やかなスタイルに仕上がった。ジャストサイズのジャケットにはセーラーカラーの付け襟が重なり、白シャツには体に沿うアシンメトリーのジレを組み合わせる。透け感のあるシャツブルゾンには、フレアパンツとハンカチーフヘムのスカートをレイヤード。重ね着もエアリーな軽さがある。テーラードジャケット風のプルオーバー、袖にスラッシュを入れたジャケットなど、少し変化させたデザインが充実する。

ウジョー

(青木規子)

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