【対談】パーリーゲイツ×スノーピーク コロナ下でブランドの魅力を高めるには?

2021/02/11 06:30 更新


 競合ひしめくゴルフウェア市場で9期連続の増収を達成した「パーリーゲイツ」(TSIグルーヴアンドスポーツ)と、20年12月期の業績予想を上方修正し、15期連続の増収を見込むスノーピーク。どちらも「3密」を回避しやすい屋外でのアクティビティーに絡む製品とサービスを提供するが、その勢いは目を見張る。コロナ下でもブランドの魅力を高める施策とは何か。両ブランドの現場責任者が語り合った。

(聞き手・構成は杉江潤平)

 ――緊急事態宣言中(20年4~5月)、顧客とどう向き合ったか。

 吉野 会長の山井太が本部長を務める対策本部を立ち上げ、対応策を迅速に進めました。特に直営店と販売員を派遣する卸先店舗の計110店は当時ほぼ全てを閉店、自社ECサイトもスペックアップしました。 当社製品はテクニカルなものばかりで、お客様が商品の購入を検討される際、販売スタッフの説明が判断材料になります。そこでリアル店舗で働けなくなったスタッフをチャットサービス担当に配置し、ECでも実店舗のような接客体験を提供できるようにしました。

 岡田 当時とにかく意識したのは、顧客に対するケアです。パーリーゲイツは19年にブランド設立30周年を迎え、一年を通じて様々なキャンペーンを展開したのですが、その中の一つに毎月商品を3万円以上購入されたお客様にスタンプを押すスタンプラリーがあり、それをコンプリートされたお客様が約700人いたんです。我々はその方々をロイヤルカスタマーと位置付け、緊急事態宣言中に限定マスクやお手紙をお送りし、関係維持に努めました。


岡田 浩治(おかだ・こうじ) 1977年、東京生まれ。2003年にTSIホールディングスの前身、サンエー・インターナショナルが展開していたメンズブランド「abx」のMDアシスタントとして入社。10年に「パーリーゲイツ」のMDとして異動。17年、ブランド事業部長に就任。私生活ではキャンプを楽しむ。

 ――不測の事態に、迅速な対応ができたのは。

 吉野 ユーザー目線というのが一番大きいと思います。コロナにより外に出られず、人とも会いにくくなる中、お客様は癒やしを求めて生活の仕方を工夫し始め、屋内やベランダなど身近なところでアウトドアを楽しむようになりました。そうした変化を察知し、おうちでも使える製品を紹介していったのです。


吉野 真紀夫(よしの・まきお) 1974年、東京生まれ。2003年にスノーピーク入社。入社と同時に東京から本社のある新潟県へ移住し商品企画開発に携わる。20年4月から未来開発本部でギア・アパレル・体験サービスなどのモノ・コトづくり全般に従事している。人気2ルームテント「ランドロック」の開発者。

■社会問題の解決を

 岡田 三井不動産レジデンシャルのタワーマンション「パークタワー晴海」(19年完工)では、共用部分をスノーピークが共同開発されたとか。どんな意図で関わったのですか。

 吉野 単に当社製品を共用部で使えるというプランではなく、暮らし方にまで入り込んだ提案になります。敷地内には住民がたき火やバーベキュー、キャンプを楽しめるスペースを作りました。都心部のタワーマンションに住む人こそ、日常的に自然を感じ、癒やされ、人間性を回復してもらいたい。そんな思いで参画したのです。

 岡田 異業種と組んで新しい取り組みをする際も、既存事業と親和性があるのは重要ですよね。実は当ブランドでも30周年時に、メルセデス・ベンツとコラボレーションし、Eクラスステーションワゴン用のオリジナルラッピングを企画しました。ゴルファーの皆さんに、ゴルフ場の行き帰りにもパーリーゲイツを感じてもらいと思ったのです。

 吉野 「一戸建てをスノーピークバージョンに」といったオファーはたくさん来ますが、商品だけを切り取ったコラボに興味はありません。むしろ街や、そこに住む人たちの生活自体を、私たちがこれまで培ってきた知見や要素を生かしてより良く変えていくほうが私たちらしい。

 スノーピークの存在意義は、社会的な問題を解決すること。先ほどのマンションの事例も「長く住んでいても隣人の顔すら知らない」といった集合住宅にありがちな問題を解決するきっかけにしたかったのです。

対談は東京・原宿のスノーピークトーキョーHQ3で行った

■顧客同士もつながる

 ――どちらも顧客参加型イベントをしている。続ける意図は。

 岡田 毎年、春に13回、秋に契約プロを招いて10回、冬にロイヤルカスタマーを招いて1回、コンペイベントを開催し、年間延べ2500人以上が参加しています。購入後にお客様が輝ける場所を作るのが狙いですが、お客様と触れ合い、我々が元気をもらえることも続ける理由です。先日も、イベントに参加されたお客様から「着るものに無頓着だった夫が『パーリーゲイツ』と出会って服好きになりました」とお聞きし、うれしくなりました。運営側で参加する店舗スタッフも、お客様と店外で会うと関係が深まるようです。

ゴルフ用でありながらファッション性の高いウェアを提案する「パーリーゲイツ」(20年冬コレクションから)

 吉野 当社では年10回、全国を巡回し、毎回400~600人が参加するキャンプイベント「スノーピークウェイ」(SPW)を開催しています。もちろん運営に手間はかかりますが、ユーザーの皆様に喜んでもらえますし、交流を深める中でお客様から商品や事業へのリクエストなども聞ける機会になっています。

 面白いのは、SPWがお客様同士の出会う場にもなっていること。たき火を囲むまで他人同士なのに、話すうちに共通項を見つけて仲良くなり、連絡先まで交換するのです。スノーピークの顧客には30代、40代が多いのですが、その年代になると友達を作る機会がありません。しかし、高齢社会に突入する今後、支え合う存在は不可欠ですから、損得関係なく、こうしたつながりを生む機会を提供できているのはすごいと感じています。

 ――どちらも熱烈な顧客を抱え、好調が続く。なぜか。

 岡田 スタッフがブランドを心から好きということに尽きます。服のデザインに合わせてネイルを変えたり、四六時中ブランドのことを考えていたりと、思いが強過ぎるメンバーばかりです。だからミーティングでも、役割・ポジションにかかわらず、皆が積極的に意見を出し合い、活発な議論ができています。

 吉野 私は、パッションが大事だと思っています。ファンを熱狂させるには、社員自身が強いパッションを持ち、常にお客様の想像の先を行くサービスを作り出すこと。それこそが熱狂的なファンを生む秘訣(ひけつ)です。

 岡田 熱意は数値化することができませんし、若い人には古臭いと思われるかもしれません。もちろん、KPI(最重要経営課題)などの設定も重要です。それでも、やっぱり気持ちや思いは大事ですよね。

 私はよく、「社内を啓蒙(けいもう)できない人は社外の人も啓蒙できない。社内の人を振り向かせられなければ、取引先やその先のお客様を振り向かせることはできない」と言っているんです。

■突き抜けた非日常を

 ――スノーピークはキャンプ場を7カ所運営し、パーリーゲイツもゴルフ場のプロデュースを検討中だ。なぜメーカーがフィールド自体も手掛けるのか。

 岡田 お客様と365日コミュニケーションを取れる場が欲しいと思いました。ブランドらしいゴルフ場を作り、購入者が輝ける場にしたいのです。

 重視するのは女性目線です。今、女性ゴルファーが増えていますが、国内の名門ゴルフ場でさえコース内にある茶屋のトイレが汚いなど、女性が気持ちよくラウンドできる環境にないところがあります。そういった点を改善し、女性ゴルファーが楽しめる空間にしたいですね。

 吉野 スノーピークが運営するキャンプ場のうち、本社(新潟県三条市)にある直営キャンプ場以外は、行政から運営を委託されています。設備の老朽化や打ち出しの仕方などに問題があり、維持管理費が掛かる割に集客できずに悩んでいる自治体から相談をもらうのです。

 我々がコンサルとして入って既存施設の改善を進める際、近隣に住むヘビーユーザーにモニタリングをしてもらいます。フィールドが持つ良さを輝かせるにはどうすればよいか。ブレストにも加わってもらうのです。

 我々はプロセスを大事にしています。北海道で運営するキャンプ場(帯広市・十勝幌尻岳山麓(さんろく))では、開業前にマイナス25度の雪中キャンプをスタッフ自身が実際に体験しました。こうした過程を経ないと、「突き抜けた非日常」となる、質の高い体験価値を提供することはできません。

スノーピークが20年7月、長野・白馬に本格開業した体験型複合施設「スノーピークランドステーション白馬」は「地方創生」を目的とした取り組み

■新規参入者の定着を

 ――21年はどんな年に。

 岡田 20年5月に緊急事態宣言が解除された後、国内の新規ゴルファーは17万人以上増えたそうです。そのため、既存ゴルファーに限らず、新規の方にも継続して楽しんでもらえるようなアプローチをしたいですね。例年開催のイベントに加え、お客様が購入された当ブランドのウェアを着用し、楽しんでもらえる新たな場も設定したいと考えています。

 吉野 21年以降、業界の垣根はより一層無くなるでしょう。10年前には、まさかスノーピークが住環境を手掛けるとは思っていませんでしたが、「自然指向のライフバリューを提案し実現する」という当社理念に照らせば自然なことです。今後も軸をぶらさず新しいことにチャレンジすべきだと思っています。

 グローバル化も加速させたいですね。現在33カ国に輸出していますが、21年は特にアメリカでの事業拡大がテーマ。会長の山井直轄で戦略を組み、実行していきます。

対談に臨んだスノーピーク吉野氏(右)とパーリーゲイツ岡田氏

(繊研新聞本紙21年1月1日付)

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