マネキンから領域、サービスを拡大、ディスプレー関連で総合化してきた。近年ではM&A(企業の合併・買収)にも積極的で、それを収益につなげてきたアディスミューズ。もちろん外出自粛をはじめとした新型コロナウイルス感染拡大の影響は小さくないが、新たな環境に対応する3カ年計画を立てて、DX(デジタルトランスフォーメーション)などで自身を変える機にする構えだ。髙橋拓也社長に聞いた。
マネキンから領域、サービス広げ総合化
――事業はマネキンにとどまらず多岐にわたっている。
アディスミューズは、自らを総合ディスプレー企業と定義しています。マネキンなどのレンタル、店装、イベント、昨今ではデジタルも加えた四つをコア事業と呼んでいます。商空間がメインになりますが、より幅広く捉えた販売促進をトータルで、ワンストップで任せてもらっている専門商社といえます。レンタルが3割強と大きく大切にしていますが、ここ5、6年はイベントで伸ばしてきました。
信頼関係、パートナーシップをしっかり結んで、クライアントの収益につなげ、「アディスミューズがいなくては困る」と言ってもらえるようにしっかり寄り添うことが役割です。
総合ディスプレー業ですからサービスの幅が広いのが強みと思っています。販促に関してはいろいろな要望があります。ひるまずに応えることで幅を広げてきました。これからもこの姿勢は変わりません。企画から施工、物作りをワンストップで完結することを心掛けてきました。これも評価されているのと思います。それから強みとして挙げられるのは人間力です。デザイン、営業、製造さらには機動力やコストパフォーマンスも人の力です。さらに、結束力も強みになっていると思います。一心同体というか親分子分というか。この商売は理不尽の塊みたいなところがあります。このビジネスには社内の親密性が欠かせません。
――クライアントの幅が広いと聞く。
もともとは塚本商事、現在のツカモトコーポレーションのマネキン部門でした。78年に分社しましたが、業界の中では後発になります。当時、私はいなかったのですが、主要顧客である百貨店やアパレルメーカーといったところの多くは同業他社が握っていました。そこで生き抜くためには幅広くクライアント層を求めるしかなかったと聞いています。その労苦があって今があるのだと思います。
ツカモトコーポレーションとは13年に資本関係を解消しています。時代が変わりシナジーが見いだしにくくなったからですが、ビジネスでは関係が保たれていますし、その近江商人のDNAはつながっていると思っています。近江商人の〝三方良し〟や社会に貢献できてこそという考え方は、サステイナブル(持続可能な)に通じ、不透明な時代だからこそ生かしたいものです。
――M&Aを進めてきた。
タイの2社のほか、国内に6社のグループ会社がありますが、このうち4社はM&Aによるものです。サービスの領域拡大はもちろん、グループ内の刺激になっており、人材の確保につながっています。
BtoC(企業対消費者取引)でレンタルを行うダーリングコーポレーションを入れたことでDXが加速しました。東京総合アートは什器などのメーカー機能を担いますが、内製化したことで利益率を上げることができました。レンティックは食分野の内装を手掛けており、サービスの間口を広げています。日本演出は店舗用品の通販ですが、新規顧客の開拓につながっています。
――市場の見方は。
マネキンは明らかに成熟業界だと思います。だからこそ新しい価値を作ることができるのではないかと思っています。
5年後にはプレーヤーが半数になっていてもおかしくないというくらいの危機感も持たないと生き残れないのではないでしょうか。従来のところのとどまるのはリスクです。ただただ淘汰(とうた)されるだけでしょう。果敢に投資をして、新たな成長モデルが作れるかどうか、ここだと思います。
非常時だから全員でバリューアップ追求
――コロナ禍の影響は。
世界中が債務過多のようになっています。経済的なクラッシュが起きかねず、備える必要があります。
実のビジネスでは、ようやく70%くらいに戻っていますが、20年3月以降、伸ばしていたイベント事業が大打撃を受けました。百貨店の休業などもありましたから、創業以来の苦境に立ったのは事実です。そこで考えていたのはいかに雇用を守るかでした。人間力がアディスミューズの強みであり、専門性のある人材は変えがたいです。ただ、マイナス面ばかりではありません。数多くの気づきがありました。
非常時だからこそ、もう一度新しいアディスミューズを作ろうと3カ年計画を立ててスタートしています。初年度は20年9月~21年3月と変則ですが、21年度、22年度と続きます。新しいことをやっていきます。企業も事業も人も、これまでと同じスタンスでは淘汰(とうた)されかねませんから、プラスアルファしてバリューアップすることが求められます。
そこで着実な成長の源泉と考えたことが三つあります。一つは営業力、サービス力をはじめとした社員力の強化、もう一つが社内、グループ内のDX、そしてグループシナジーの最大化です。
――具体的な取り組みは。
全社員が参加した四つのプロジェクトを立ち上げています。一つ目は社内、グループのDX。実は図面をはじめ紙のあふれている業界です。これをデジタルに置き換えたい。二つ目は購買管理の活性化。仕入れ先との協業を進めます。三つ目は経費の削減。これこそ全員に参加してもらって小さなことを積み上げて大きな成果につなげたいと思います。そして四つ目が新規事業開拓と既存事業の活性化。営業力のテコ入れです。進捗はこれからというところはありますが、これで進めます。
私たちはリアルを追い求めてきました。それをブラッシュアップしていきますが、ポイントになるのはそのリアルにデジタルをどう流し込むかということだと考えています。
すでにデジタルはコア事業の一つになっており、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、バーチャルブースを商品化しています。しかしここにとどまらず、MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援システム)の導入で役に立つようになりたいと思っています。得意とする企業と協業することになるでしょうし、ここでもM&Aということになるかもしれませんが、従来の領域を越えて、コンサルティングの分野に進む形です。それによってクライアントとのパイプも太くなるでしょう。
――なぜそうした方向に進むのか。
例えば展示会はこれまで来場者数で評価されてきました。「何千人来てくれた」で満足してもらっていました。ですが、それがどれだけ売り上げや利益に貢献していているのかが問われるようになっています。これからは、きれいに作るだけでは受注できなくなるでしょう。コロナでリアルがリスクになっているだけになおさらです。そこで、MA、SFAを活用、効果を出して説得力を持ちたいと思っています。デジタルがリアルのフックになります。
それにMAやSFAは中小企業にとって喫緊の課題という状況です。その導入のお手伝いに商機があります。もっとも分からずに勧めることはできませんから、社内のDX化は、自身で人体実験をしているようなところもあります。
コロナは災苦です。しかし、これを進化の道にしたい。規模ではなく中身を追求してきましたが、今回のピンチをチャンスに変えて、よりソリッド(堅実)な企業にしていきたいと考えています。
■アディスミューズ
1957年に塚本商事(現ツカモトコーポレーション)のマネキン部として事業を開始した。78年にミューズマネキンとして分社、86年にアディスミューズに社名変更した。13年にはツカモトコーポレーションから全株式を譲り受け、資本関係を解消している。東日本をカバーしているマネキン、什器などのレンタル事業から店舗設計・施工、イベントの企画、施工、管理などに業容を広げてきた。14年以降はアディスタイランドによる海外進出とともに、積極的なM&Aで事業領域も広げている。従業員は150人だが8社体制のグループでは210人になる。20年度はコロナの影響が大きいが、年商規模は80億円余り。
《記者メモ》
「ピンチをチャンスに変える」「果敢に投資」「成功以外考えられない」……インタビューでは強い言葉が続いた。コロナ下で難しいかじ取りが求められるところだが、オーナー経営者が多いマネキン・ディスプレー業界にあってサラリーマンから経営トップになり、「利益創造力の高い」企業体質を培ってきた自信がうかがえる。
危機感から策定、20年9月にスタートした3カ年計画は4月から2年目に入るが、「21、22年度は新しいことに挑戦したい」と、とどまるリスクの回避が本格化する。
自身の目標を尋ねると、「アディスミューズの質を落とさないで」と前置きした上で、「100年続く100社を作り、100人の社長を育てたいたい」とのこと。そして「一緒に働いているみんなに社長になってもらいたい」。難しい時代だからこそ、事を成し遂げたいという思いを強めているようだ。
(田村光龍)
(繊研新聞本紙21年3月5日付)