Jクオリティー・ファクトリーブランドプロジェクトの中城ディレクター 国内工場の本気度伝えたい

2021/05/05 06:28 更新


 国内工場12社が集まり、一つのメンズブランドを作り上げるプロジェクトが進んでいる。そのディレクターを務めるのが、セレクトショップで店頭からバイイング、商品開発などを経験してきたムーヴァーズ・アンド・シェイカーズの中城大祐代表。今回、日本ファッション産業協議会の「Jクオリティー」認証企業が参加した「ファクトリーブランドプロジェクト」で、国内工場の自社ブランドによる企画・開発や販路開拓など自立的な成長を支援する。まず、3月下旬の展示会で「作り手の本気度を感じてほしい」と強調する。

クオリティー認証事業、今こそ多くの人に響くはず

 ――今回のプロジェクトに参加した理由は。

 参加するメンバー、作り手の熱さが決め手です。ただし、一般的にファクトリーブランドがマーケットに受け入れられるのは簡単ではありません。生産現場と消費者との距離が物理的にも精神的にも遠いなど課題は多くあります。成功するには、自社のファクトリーブランドを事業の次の柱にまで育成するのかなど経営者の姿勢、本気度が問われます。そのためには何が課題で、どう解決するかなど、あえて厳しい意見も交えながら、一緒に国内工場の生き残りを考えていきたいと思っています。

 メンズ業界では90年代以降イタリアのファクトリーブランドが全盛の時代がありました。フィレンツェで開催されるメンズ総合展示会「ピッティ・イマージネ・ウオモ」から発信されるクラシックなスタイルの新鮮さが受けました。次の段階には輸入卸やセレクトショップのバイヤーが日本の消費者に合ったサイズ感など現代的なアレンジが人気となりました。決して、品質が良いものだからマーケットに受け入れられるという単純な構図ではないのです。当時は「日本で仕掛けたブームが2年後にイタリアで流行する」と言われたほどです。そうしたイタリアの工場よりも日本の工場は遅れているのかもしれません。

 ――数社のファクトリーが集まり一つのブランドを作るのは珍しい。

 参加した12社で一つのコレクションを作るので、単品が売れたとしても工場にとっての根本的な解決にはならないと考えています。そのため、各工場の強みにこだわったプロダクトアウト型のフルスペックライン(約40型。ECと卸)とOEM(相手先ブランドによる生産)の取り組みを中心としたマーケットイン型のアプリケーションラインの二段構えで構成しています。ファクトリーブランドを介して主力卸先として想定している有力セレクトショップと国内工場の新しい出会いを創出できればと思っています。しかし現在、マーケットは冷えきっているため、まず厳しい選択眼と鋭い嗅覚を持ったバイヤーに関心を持ってもらうことが第一です。その次の段階として、じっくり見てもらい、踏み込んだ商談まで進んでほしい。ブランド側も小売店側も多くの悩みを抱えているのが現状です。そうしたときに、安易に販売手法の変更で解決しようとしがちですが、物余りが続くなか、消費者に「買いたい」と思ってもらうには、今回のプロジェクトが突破口になり得るかもしれません。今の時代、いきなりホームランを狙っても打てるものではありません。まずシングルヒットを積み重ねることで、従来の考え方や流れを変えるきっかけになります。

 ――Jクオリティー認証事業の価値が見直される可能性は大きい。

 コロナ禍によって消費者の意識、業界構造などあらゆることが変わりました。今、「服の価値や本質とは何か」という問いがファッション業界に突き付けられています。従来型の思考では薄っぺらな回答になりがちですが、それでは通用しません。これからは、物作りの可視化が重要なのです。これまで数年かけて築き上げてきた純国産表示制度「Jクオリティー商品認証事業」の出番ではないでしょうか。SDGs(持続可能な開発目標)はもちろん、サステイナビリティー(持続可能性)やトレーサビリティー(履歴管理)、企業の社会的責任(CSR)などへの意識が高まってきた今だからこそ、多くの人の心に響くはずです。工場名がブランドのタグなどで明記され、有力ショップなどで消費者の目に触れる機会が増えることで作り手の緊張感も高まります。生産現場で働く人たちのマインドも変えていきたいのです。いつまでも今までのような受け身の姿勢ではだめなのです。作り手と売り手は対等な関係で協業してほしいと思っています。

 プロジェクトを機に、ファクトリーブランドが消費者の支持を得られ、国内工場の仕事が増えるのが理想。さらには最近、未来がない産業と思われているアパレル・ファッション産業に若い人材も入ってくるような好循環を生み出せるようになってほしい。その一歩を踏み出すのは市況の悪い今がチャンスなのかもしれません。

生産現場とともにファクトリーブランドを作る(右が中城ディレクター)

業界の閉塞感を打破する日本の服作り

 ――日本の服作りが再評価される。

 コロナ下でサプライチェーンの見直しも注目されています。短納期対応などでは国内生産に取り組む企業も出てきました。脱大量生産の流れも強まりつつあります。丁寧に作られた服には愛着がわくものです。長く大事に使うことこそが一番のサステイナブルのはずです。こうした志向はメンズ業界では昔から重宝されてきており、親和性が高く受け入れられやすい土壌があります。栄養を摂取するだけならサプリで十分ですが、楽しくおいしく味わわなければ料理じゃない。それはファッションも同じことです。

 ――ディレクターとして大事なことは。

 商品開発では美意識が重要です。別の言葉で言うと「自分のものさし」「感性のフィルター」。それに基づき意思決定し、モノ・コトを掘り下げ、改善を重ねていきます。美意識を磨き続けるには服・ファッション以外の文化、社会、経済の情報も取り入れなければなりません。今回のプロジェクトで開発したファクトリーブランドの商品でも細部にまで宿る美意識の高さを見てもらいたいと思っています。完成したサンプルを見て「カッコイイ」と単純に思いました。個人的にも欲しいものだらけです。国内工場の凄さを感じてもらうため、自分のすべてを注入したつもりです。商品一つひとつに各工場の一番の強みが表現されていると思います。

 工場に大切にしてほしいのは哲学ですね。自社の強み、芯をぶらさず、考えを貫いてほしい。今回のプロジェクトで、モノとしての完成度はもちろん、卸先や取り組み先の開拓などの結果もしっかり出すことです。そのためには工場が苦手としている伝える作業が大事になります。これから展示会をはじめ、さまざまな場面で現場の熱量をしっかり届けられるかどうかにかかっています。

 ――ファクトリーブランドを広めるのに何が必要。

 時代性につきます。品質が良くきれいでスタンダードな服を作ったとしても、有名ブランドに比べて手頃な価格だけがウリだったら、売れるでしょうか。そこには感動がありません。品質プラス、デザイン・クリエイションの力が必要になります。自分が良いと信じるものを他社とも共有するきっかけになるのが時代性です。流行ということではなく、時代の気分をスパイスとして上手に振りかけられるかで変わってきます。

 例えば、スーツ工場が得意のテーラードアイテムを従来通りきっちり作っても今はどうでしょうか。カジュアルマインドの服作りをベースにしつつ、テーラードで培ってきた職人によるボタンホールの手縫いを取り入れると服に温かみが生まれます。これは他社にはまねのできないことです。今までやってこなかったことにチャレンジすることで、次代のテーラード工場の在り方が見えてくるでしょう。今回のプロジェクトでは各工場がリクエストに応えてトライしてくれました。

 ――厳しい状況から抜け出すきっかけになる。

 今、ファッション業界全般の閉塞(へいそく)感がひど過ぎます。大手小売業も厳しい状況です。EC強化ばかりでは店頭スタッフもつまらないはずです。逆に地方の個店が存在感を強めています。オリジナリティーのある品揃えに服好きの常連客が集う。ここにヒントがあると思うのです。新しいブランドを発掘し一緒に育てるなど次代を見越したチャレンジをする店が目立ちます。これは服屋の基本ではないでしょうか。プロジェクトと取り組む店が増え、評価されることは工場の自信にもつながります。その土台を3年かけて作っていきたいと思います。

なかじょう・だいすけ 1971年大阪府生まれ。トゥモローランドで販売員としてキャリアをスタート。店舗マネジャー、バイヤー、ダイレクター、マーチャンダイザー、事業部長、執行役員として従事した後、16年に独立。経営者視点に立った実行支援型コンサルティング事業を行うムーヴァーズ・アンド・シェイカーズを設立。

■Jクオリティー・ファクトリーブランドプロジェクト

 Jクオリティー認証企業12社が参加。製織、編み立て、縫製など各分野に精通した工場が集まり、一人のディレクターの下でメンズのトータルブランドを開発する。ウィズコロナでの新しい生活スタイルに合った上質でシンプルな日常着を作る。ホーム、ネイバーフッド、オフィスの3シーンで構成。21年秋冬物からECと国内の有力セレクトショップへの卸売りを見込む。3月22~24日に東京で展示会を開催。同プロジェクトは経済産業省中小企業庁のジャパンブランド育成支援事業として20年度を初年度(3年計画)に採択された。Jクオリティーをプラットフォームに各工場が連携し、力を結集することで、日本の物作りを世界へ発信することを目指す。

《記者メモ》

 中城さんとは20年近く前にメンズ業界の大御所が開いていた勉強会以来の再会だった。数年前から記者の取材先のトラッドブランドのディレクターに就任し、リブランディングで成果を上げてきた。直接会うことはなかったのだが、ブランドの強みを生かしながら、今の時代にフィットした商品で新たなファンを増やした手腕に感心し、ぜひ会って話を聞きたいと思っていた人だった。久々に会い、今回のプロジェクトの取材をする中で、単に机上のアドバイスで終わるのではなく、「国内工場が生き残るためにマーケットで結果を出したい」との言葉に、熱い思いと覚悟を感じた。3月下旬の展示会はもちろん、3年後のプロジェクトの成長が楽しみだ。

(大竹清臣)

(繊研新聞本紙21年3月19日付)

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