アウトドアメーカーのモンベル(大阪市)は今年、創業45周年を迎えた。今年も大規模な災害時に組織するボランティア集団「アウトドア義援隊」では新型コロナウイルスや7月豪雨被害に際し、援助金の受け付けや支援物資の提供などを行った。辰野岳史社長は「キャンプがブームになっているが、アウトドアでの経験は災害時にも役立ち生き抜く力が育つ」と強調する。
きっかけがあれば地方も活性化する
――新型コロナウイルス感染拡大でもアウトドア義援隊の立ち上がりが早かった。
辰野勇代表取締役会長が中心となり、4月から支援援助金の受け付けを開始しました。当初、病院関係者から防護服の要望があり、寝袋のカバーとして備蓄していた透湿防水素材「タイベック」を使って生産しました。マスクも不足していたので、ストックしていた吸水速乾素材を使い、マスク9万枚を生産し、売上高の半分をアウトドア義援隊に寄付しました。支援物資としては防護服約6万着、フェイスシールド4万個、レインウェア452着(10月末時点)を提供しました。
7月豪雨被害でも熊本県内店舗の社員を中心にアウトドア義援隊を結成し、浸水家屋の片付けやがれきの撤去などを行いました。
私も東日本大震災のときは宮城県登米市に行っていました。近年、毎年のように災害が発生しており、一私企業でできることは限られていますが、地方自治体との包括連携協定による横の広がりによっても何か助け合いができることがあればと考えています。
――近年、地方自治体をはじめ様々な団体と包括連携協定を結んでいる。
包括連携協定は70団体に達しており、大学や外国大使館、刑務所、日本航空(JAL)など幅広いつながりができてきました。JALではユニフォームも作成しました。これまでもユニフォームはカスタムオーダーで会社や自治体、レスキュー隊などを手掛けています。特殊な環境下での作業に対する物作りは勉強になります。当社では第一次産業向けウェアにも力を入れています。林業ではチェーンソーでも切れないウェアなどを開発しています。これまでの海外ブランドの第一次産業ウェアは大きく重かったですが、当社はアウトドアウェアをベースに軽く動きやすいと好評です。農業でも作物によって人の動きは様々です。水産業では魚の血や海底泥への対応が難しく、色々な状況下を想定した物作りは非常に良い刺激になります。
包括連携協定では「地元の元気になりたい」という出会いに楽しさがあります。地域活性の一番は地域からの色々な提案です。店舗をオープンしたら、活性化するというわけではありません。
8月に出店した秋田美郷店は人口の少ない郊外立地で、地域活性化の活発な所でもなかったのですが、オープンしてみると、これまでにない客数が休日も平日も来ています。オープンしたばかりで、全国127店のベスト5に入る勢いです。周辺にはつぶれた店も多くあるような幹線道路沿いの「道の駅」に出店したものですが、地方に元気がないのではなく、きっかけがなかっただけで、きっかけがあれば客は集まります。農家の方には平日と週末という区別もありません。
18年に開業した「大山参道市場」(鳥取県)では町と一緒に物産・お土産とカフェを併設した店を作り、にぎわっています。元々、参拝客や登山客はいましたが、立ち止まる場所がなかったためシャッター通りになっていました。地方も楽しめる空間があれば客は来てくれます。企業としても全く知らない場所に出ていくのには抵抗がありますので、地域がウェルカムになってもらえれば、お互いにウィンウィンな関係になれます。大山などの例を見て「うちの町にも」という自治体も増えています。
基本的に新規出店では販売効率だけでなく、新しい遊びに出合ってほしいと考えています。売り場もゆったりと作り、遊び道具にあふれた感じにしています。
コロナ禍でも地方の強さが目立つ半面、都心部の店は売上高が戻っていません。6月に出店した六本木ヒルズ店はビルに出勤する人がテレワークで減っていて、厳しい面があります。
キャンプ用品は災害時にも役立つ
――今年はコロナ禍で、店舗の休業などが迫られた。
今春は一時、全店的な休業となり、アウトドア業界にとって〝書き入れ時〟のゴールデンウィークの売り上げなど、どう取り戻すかと頭を悩ませました。その後は徐々に戻り、街中で遊ぶよりも〝密〟を避けてキャンプやアウトドアを選ぶという人も増えたようです。当初は回復するのには1~2年はかかるのではと思っていましたが、11月には前年実績を上回りました。
しかし、売れ行きの戻り方には違いも出ています。やはり都心部の戻りが悪く、中心地であるほど回復が遅い傾向が出ています。その半面、目立ったのが地方の強さです。アウトドアを楽しむフィールドに近い場所をはじめとした地方の独立店は、戻りが早い状況となりました。また、拡大した通販事業にも助けられました。
――昨今のキャンプブームで販売面での特徴は。
当社はアウトドア用品全般を扱っていますが、特にレジャー的な平地のキャンプ用品ということでは椅子やテーブルなどファーニチャー関係、テントも山岳用テントよりも平地用の反応が今年は良かったです。私も開発に加わったたき火台も早々に売り切れてしまいました。
今年はキャンプの話題が増え、コロナ禍でもアウトドアの良さが見直されました。今年は特殊な状況でしたが、その中でもキャンプ市場の盛り上がりは、我々も読めなかったような波になりました。たき火好きは昔からいましたが、今年ブームになった一人で宿泊する「ソロキャンプ」ではたき火が好きで行っている人も多くいるようです。
最近は個性派アウトドアメーカーのガレージブランドでもたき火がはやっています。たき火でも楽しみ方は色々と種類があって、炎を見るたき火台や調理もできるたき火台など、それぞれのスタイルがあります。ガレージブランドの人気は我々から見てもアウトドア用品の選択肢が増え、顧客のニーズも多様化しているので、良いことだと思います。当社も元々は辰野会長の豊富な経験による商品開発をベースに今日に至っています。私は辰野会長ほどのアルピニズムを持っているわけではありせんが、私のバックグラウンドである金物系から別のフィードバックができることで、新しい物作りができる化学反応が出てきています。
――外出自粛もあり〝おうちキャンプ〟など自宅でキャンプ用品を使うケースも増えた。
15年に「モンベルヴィレッジ立山」をオープンしたとき、試験的にライフスタイルショップを作りました。自社商品のほか、他社の雑貨品も含めて「家の中でアウトドアを感じられる物」を取り入れました。自然の木を使った玩具や生活用品などですが、これが一般に広がってきた感じがしています。
キャンプがはやるのは、良いことだと思います。有事の防災的観点からも、キャンプ道具は役立ちます。最近は密を避けるため避難所生活が問題となっていますが、駐車場などでもキャンプ用品で泊まることができ、年々災害が増える中、いざという時に役立つ道具になります。
最近は山を買う人も増えているようですが、キャンプブームの弊害の一つとして、リスクマネジメントや防災知識の部分があります。キャンプ場などでのゴミ問題が指摘されており、山も所有すると災害を起こさないように管理しないといけない責任があります。
当社ではグランピング(豪華なキャンプ)という考え方はあまりありません。グランピングはホテルのような快適な空間を野外で体験するという趣旨で、楽でいいのですが、これはキャンプという考え方と違います。キャンプは日常にない不便を楽しみ、いかに克服するか工夫することもだいご味です。
当社の開催している「アウトドアチャレンジ」では親子での参加時に子供にたき火を任せたりしています。薪を集め、火の着け方を学び、火を守る人になると自信も付きます。生き抜く力が育ち、災害時にも役立ちます。
アウトドア業界は「リセッションプルーフ」とも呼ばれます。好景気では大きく伸びませんが、不景気でも着実に伸びる市場だと言われています。今年は当初、商品生産も大きく調整しないといけないと思いましたが、だいぶ元に戻りつつあります。コロナ禍でアウトドアへの携わり方、ウイルスへの対策など顧客ニーズにも変化が出てきているので、これに合わせつつ、これまでの方向性を続けたいと考えています。
■モンベル
1975年に、父の辰野勇代表取締役会長と真崎文明、増尾幸子の2人の山仲間で設立。「自然環境保全意識の醸成」「野外活動を通じ、子供たちの生きる力を育む」「健康寿命の増進」など〝七つのミッション〟を社是としている。有料の会員組織「モンベルクラブ」は約95万人に達し、5年後の創業50周年には「100万人突破」を目標としている。グループ年商は19年度(19年8月期)約840億円(前期比5%増)。ここ2年ほどでは12%増となっている。
《記者メモ》
辰野岳史社長はモンベルに入る前、車の改造業をしていた。ピックアップトラックが好きで、古いアメリカ車を改造したりしていて、今でも自分で整備する。機械いじりが好きで、〝物作り好き〟を自負する。入社する前から「作って、試して、改良してみる」という癖を持っており、これらが最近のたき火台や「高さの変えられるテーブル」など人気となっているアウトドア用品の開発に生かされているようだ。
創業者である父の辰野勇会長は商社で糸偏を経験し、アパレルも含めた繊維製品の開発にたけていた。一方、辰野社長は自らを「金偏出身」として、繊維製品に加えて金属製品の商品開発にも力を入れており、糸偏と金偏で相乗効果を発揮している。入社してから、繊維に関しても勉強し、後加工など「すごく奥深く、楽しく学んでいる」と話す。「ファンクション・イズ・ビューティー」「ライト&ファスト」という商品コンセプトは継承しつつ、物作りはさらに進化しそうだ。
(小田茂)
(繊研新聞本紙20年12月4日付)