コロナ禍でも着実に成長している。流行を超えた共通の哲学や強固なものづくりの考えを共有し、本物であることにこだわるブランド集合体にぶれないで取り組んできたことが成長の原動力だ。顧客の価値観や生活様式が大きく変化していることを好機ととらえて、バッグを軸にしたファッションビジネスから「衣・食・住・遊」の高品質なライフスタイル提案型企業への挑戦を始めた。「日本一、働きがいのある会社づくり」を基軸に価値創造企業を目指す。
コロナ下でも柔軟対応で収益化
――コロナ禍の厳しい時代だが直近の状況は。
19年度(20年2月期)は過去最高益を出して決算賞与も支給しました。今期に入って3月ごろからコロナ禍の影響が表れ、4月7日の緊急事態宣言で直営店は5月まで店を休むことになり、第1四半期(3~5月)は厳しい状況でした。しかし、ホールセール(卸)をベースにしてきた会社で、ホールセールは6カ月前から受注が入りますので、19年秋に入った20年春物の受注は好調でした。ホールセールが予算通りに推移したことで何とか乗り切ることができました。
――店舗休業の間はどうしたか。
店が休んでいる間は、店頭在庫を全てECに移して販売することに集中しました。全国の店のスタッフは店に出て、ECチームと綿密に連絡を取り合いながらECで売れた商品を店頭から出荷する作業を行いました。店は休んでもスタッフは休まず出荷に追われる状況でした。それもあってEC事業が大きく伸びて、4月が倍増、5月は3倍増、6月も2倍超えのペースで推移しました。ECの売上高比率は全体の3割前後に跳ね上がっています。ECは自社ECのほか、アマゾンや楽天、ヤフーなどを使ってネット販売している地方の販売網に対するホールセールも好調に伸びています。
――今期の着地予想は。
上半期(3~8月)の売上高は前年比85%と落としましたがコロナ禍では健闘した方だと判断しています。その後もきめ細かな施策を打ち続けてきた結果、11月に前年並みに戻し、12月も前年並み、今年1月は再度の緊急事態宣言による営業時間短縮でも100%を超えて、2月も営業時短が継続していますが前年はクリアできるだろうと見込んでいます。
これまで一貫して「営業利益率10%」の達成を目標に取り組んできましたが、今期はコロナ禍を考慮して期中に「営業利益率6.5%」に修正しました。修正予算から見ると120%の達成率で推移しており、2月期は黒字達成が見えています。厳しい環境下にもかかわらず全ては顧客に支えられているブランドなんだ、ということを改めて実感しました。
――モチベーションを下げない取り組みにも注力した。
「予算を達成する」ということは従業員の大きなモチベーションになっています。それを下げないためにも「営業利益率6.5%達成」に修正した結果、大半が予算を達成しています。従業員の強いモチベーションに支えられていることを改めて実感しています。コロナ対策にも万全を期しています。130人の従業員がいますが、1人も新型コロナウイルスに感染した者はいません。全員がこの厳しい荒波を乗り切ろうと一丸になっています。
ディベロッパーからの出店要請も増えています。神戸、名古屋に4月に出店するのをはじめ、北海道や九州は熊本、鹿児島はまだ未出店地域です。オファーが多いこともコロナ禍でつかんだチャンスだと思い、好立地と良い場所を選んで積極的姿勢で臨みます。
――成長にはトップとの意思疎通が欠かせない要素に。
本社を青山に移す前から「トークノート」をコミュニケーションツールとして採用してきました。これでいつでも全社員とコンタクトが取れます。グループも作ることが出来て、すでに100を超えるグループがツール内で活動しています。端末を使い、常にコミュニケーションを取ることが出来る環境を整えたことで、新しい働き方に変えています。店からはトークノートで毎日売り上げの報告があります。本部や店長から資料を送る時にもトークノートを使い、私も全部に目を通しています。店のスタッフに一声かけるなどコミュニケーションをとりながら、トップ、役員を含めそれぞれのスタッフが身近に感じられるような関係作りが進んでいます。緊急事態宣言が出されてリモートワークになっても、コミュニケーションを密にして、スタッフの労働生産性を下げないという点では、コロナ禍でも全く問題はありません。むしろトークノートを活用したコミュニケーションはコロナ禍で更に進化したと感じています。
衣・食・住・遊を総合提案する未来戦略
――ブランドの状況は。
ブリーフィングはDNAとゴルフ、ALG(アクティブライフギア)いう3カテゴリーがあります。DNAのくくりはワークが主力のバッグ、ジェットはトラベル関連です。リモートワークの推奨によってオフィスとは違った環境で仕事をするケースが増え、パソコンや充電器などをバッグに入れて持ち運ぶようになっています。こうした背景にあってブリーフィングは価値も価格も適正でしかも多機能であるという強みが生きて大きな需要を呼び込みました。トートバッグやリュック、スリーウェーなどの企画も多様なことから全国的に需要が伸びています。
ゴルフカテゴリーの需要が上昇傾向にあって、コロナ禍でも売り上げを大きく下支えしています。キャディーバッグからゴルフウェアまで企画開発の「ブリーフィングゴルフ」は、特にゴルフを始めた人に新しいブランドとして人気を呼び、店舗とEC双方でよく売れています。ブリーフィングゴルフを置いている店では予算比1.5倍の売り上げは普通で、中には2.3倍という店もあるほどです。
――注目できるブランドは。
スポーツカテゴリーの「ALG」(エーエルジー)です。新しい分野ですが売れ行きは順調で成長も著しく、多いに期待の持てる分野です。ランニング、フィットネス、ジム、サーフィン、ワークアウトといったゴルフ以外のスポーツ全般を対象にしたバッグやウェアの提案で、ウェアを着てバッグを持ってジムやフィットネスに行き、そのまま家に帰るというスタイルを提案しています。
「イノベーション・フォー・アクティビスト」という考えをベースに、アクティビストに向けてイノベーションを提案していこうというのが私たちの考えです。実際にこのコンセプトを基にした商品企画や開発が進んでいます。ALGはこれから必要とされるウェルネス、ウェルビーイングの健康的なライフスタイル分野を切り開き、アフターコロナ市場で飛躍的に伸び、会社の成長を底上げするブランドとして大いに期待しています。
――グループの方向性は。
「衣・食・住・遊」のグループ企業体を目指しています。M&A(企業の合併・買収)を含めて「食」分野への挑戦も検討しています。我々の顧客に提案できるような食の提案がようやく見えてきました。自前でやるか、M&Aでやるかは別にしても、次に食分野に挑戦します。「住」については、例えば、グランピングとゴルフ、あるいはキャンプとサーフィンやゴルフを、それぞれ掛け合わせた新しいライフスタイルを提案し、そこから派生する住の提案に取り組んでいきたいと考えています。様々な企業や個人と協業・協働しながら、グループのスタイルで我々の顧客に提案できるものを作り上げたい。それをブランドポートフォリオとリンクさせ、新たな商品開発や環境の提案まで広げた衣・食・住・遊を総合的に提案できるグループ戦略です。その方向性が確実に見えてきましたので、タイミングを見ながら実行に移します。
――企業の強みは。
理念にあるように「For Everyday Happiness」で、豊かで毎日が幸せになれる商品とサービスを徹底的に追求していることです。ここ4年ぐらいは業績が毎年130%ぐらいのペースで成長してきました。引き続き成長ペースを落とさずにいけば年商100億円が確実に視野に入ってきました。商品では「Q(クオリティー)、C(クリエイティブ)、C(クラフトマンシップ)」をとりわけ大切にしています。Qは世界的基準でだれが見てもグローバルに通用する品質をキープすることです。Cは製品のメッセージを伝えるとても大事な要素ですから、製品からパッケージに至るまで創造性のある仕事が求められ、社内にGS(グローバルストラテジー)部をおいてそこでクリエイティビティーを一括管理しています。「ブリーフィング」は日本人が作ったメイド・イン・USAのアメリカのブランドですから、アメリカの雰囲気をしっかり練り込んだブランドにするためには、商品の撮影一つ取っても、独自のクリエイティビティーの表現は欠かせません。
もう一つのCは、伝統と革新を融合させた職人技術での物作りです。そのために最高水準の工場と職人たちで、細かなパーツに至るまで厳選して世界トップクラスの製品を作って提供することです。このQCCを徹底的に追及することで世界に通用するブランドを発信出来ます。
■ユニオンゲートグループ
92年にセルツとして滋賀県長浜市で創業。97年にバッグ東京営業部を東京・神宮前に移転し、98年に「ブリーフィング」を米国、「ファーロ」をイタリアでそれぞれ生産を開始した。10年にセルツホールディングスに社名変更して持ち株会社化して、100%出資のセルツリミテッドを設立。バッグ事業はセルツリミテッドに譲渡した。11年にユニオンゲートグループを設立。セルツリミテッド株式を100%買い受けて純粋持ち株会社として経営改革。15年ごろから直営店の積極的な展開をスタート、21年2月時点で直営店は19店(アウトレット店を除く)。18年にセルツリミテッドを吸収合併。全従業員数は131人(21年2月1日時点)。18年本社ビルを東京・青山に移転した際、フリーアドレス制を導入しオープンスペースの中でそれぞれがクリエイティブな気持ちと意識をもって仕事をする。バーコーナーを設置して、社員のコミュニケーションの場として活用している。
《記者メモ》
近江商人の父親の背中を見て学んだことは大きい。「売り手によし、買い手によし、世間によし」という「三方によし」の経営哲学と「商魂」という言葉を大切にしている。子供のころから「商魂は顧客に喜んでもらえることから生まれるもの」ととかれ、素材から物作り、販売までそれぞれの魂を一本でつなげ、顧客が喜ぶことを大事にする教えをかたくなに守ってきた。それが理念の「For Everyday Happiness」の精神につながり今日の成長を支えてきた。
ICT(情報通信技術)活用を含め全社員との自由なコミュニケーションもトップと社員との壁を作らない。本社のフロアの一角に設けた「ユージズバー」と名付けたバーコーナーで月1回、社員が部署を超えたチームを作って懇親会の企画を立てて実行するホームメイドキッチンアワードも強力な武器に。「次の一手をつかむ」には最適な社風だ。生活様式が大きく変わった今の時代に、変革できる会社はこの先も強いと感じた。
(小川敬)
(繊研新聞本紙21年2月10日付)