露文化と旧ソ連が入り混じる古都キエフ(宮沢香奈)

2017/10/19 16:00 更新


いつのまにか何でも揃っている便利な都会に興味がなくなり、いつのまにか日本人のいない”マニアック”な街を選んで旅をするようになっていた。そんな今夏はウクライナの首都キエフへ行ってきた。

噂に聞くクラブシーンと音楽フェスの情報がなかったらきっと行かなかったであろう未知の古都。下調べをほとんどせず訪れたキエフは想像以上にいろんな魅力に溢れており、想像以上に美しかった。

滞在中の8月24日は1991年にウクライナがソビエト連邦から独立した記念日に当たり街は観光客で溢れていた。翌日も祝日となり独立記念公園周辺の広々した道路は歩行者天国となっており、若きアーミーたちによる行進、数え切れないほど多くの戦車の展示など記念日を祝うムード一色となっていた。


晴天にも恵まれたこの日、そこにいた人々の笑顔からはたった3年前に同じ場所で死人が出るほどの大暴動が起きたとはとても思えない平和そのものの光景だった。クリミア半島を巡るウクライナの内戦は沈静化したと言われているが、様々な問題を残す危機状態は現在もなお続いている。

そういった混沌とした情勢に反してキエフの街は活気に満ちており、有名なロシア教会や大聖堂といった文化遺産が多数点在し、観光地としても見応えも十分。しかも、観光地にありがちなイミテーションの安っぽい美しさではなく、建築物が位置する場所やいろんな角度から見える街の背景まで計算し尽くされているのではないかと思うほど絶妙なバランスと色合いで本当に美しかった。

ベルリンに移住し、ヨーロッパ諸国を回るようになってから気付いたことだが、意外にも建築フェチだったらしい。今回のキエフに関しても、魅惑的な玉ねぎ型のロシア教会ももちろんステキだったが、何より惹かれたのが旧ソ連時代に建てられた共産主義建築たち。一部であるが、写真とともに紹介したい。

残念ながら改装中で中には入れなかったが、外からでも圧巻の美しさだったエメラルド色に輝く聖アンドリーイ教会。

何度もリノベーションされたであろう外壁は同系色のグラデーションと全く違う色味が入り混じり、統一されていない窓枠やバルコニーが建物の風情を引き立てている。後から調べて知ったのだが、出窓やバルコニーは住人や持ち主が自由に変えられるようになっており、DIYで作られたものとのこと。


丸一日掛かりそうなほど広い公園の一番上に位置する大祖国戦争博物館(National Museum of the History of Ukraine in the Second World War)。館内はとても写真を撮れる気分には慣れないほど戦争の悲惨さを訴えていた。


いきなり目の前に現れた迫力の女神像「The Motherland Monument」は何と全長62m!! 像の途中まで登ることが出来るようになっている。


一番旧ソ連を感じたのがその時代に作られたまま現在も使用されている地下鉄の駅である。高速エスカレーターで大江戸線以上に深くまで降りるとこのホームがある。何とも言えない楕円形のフォルムにシャンデリア、でもそこに豪華さはなく、どことなく冷たく暗い雰囲気が漂う。

今回私たちが訪れたのは中心地にある有名な観光スポットばかりだが、空港に向かう途中には共産主義建築を代表する巨大な団地が密集しているエリアがある。いわゆる”ゲットー”と呼ばれるエリアであり、今も昔も労働者が住んでいる。

タクシーの中からでも強烈な印象を受けたそこには次の機会に是非とも行ってみたい場所である。他にもまだまだキエフの魅力は伝えきれないほど沢山ある。次回は街の至るところで発見出来る見事な壁画とユニークなアートたちを紹介したい。



宮沢香奈 セレクトショップのプレス、ブランドのディレクションなどの経験を経て、04年よりインディペンデントなPR事業をスタートさせる。 国内外のブランドプレスとクラブイベントや大型フェス、レーベルなどの音楽PR二本を軸にフリーランスとして奮闘中。 また、フリーライターとして、ファッションや音楽、アートなどカルチャーをメインとした執筆活動を行っている。 カルチャーwebマガジンQeticにて連載コラムを執筆するほか、取材や撮影時のインタビュアー、コーディネーターも担う。 近年では、ベルリンのローカル情報やアムステルダム最大級のダンスミュージックフェスADE2013の現地取材を行うなど、海外へと活動の場を広げている。12年に初めて行ったベルリンに運命的なものを感じ、14 年6月より移住。



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