札幌・大通の専門店 目の肥えた層も20代の好奇心も
呼び込んで顧客に育てる
札幌・大通地区のファッション専門店が〝攻め〟の姿勢で健闘している。おしゃれに関心の高い層を自力で呼び寄せ、顧客へと育て、同時に啓発し、何度も足を運びたくなる店作りに磨きをかけている。(疋田優)
札幌市は過疎化の進む北海道内で人口が増えている都市で、約194万人を抱える。ただ、買い物客は便利な札幌駅周辺の商業施設に多く集まり、冬はEC利用が高まる特徴がある。数十年後には高齢化と人口減少が想定される。こうした中で、大通地区の高感度セレクトショップは、いかに自力で客を呼び、顧客に育てるか知恵と工夫をこらし、新しい店を生み出そうと挑んでいる。
20代とらえてこそ
「洋服に関心のある層は増えても減ってもいないが、関心が高い人のファッションに求める期待度は高く、好奇心を持つ20代もいる。その期待と好奇心を自らつかみにいっている」とはミサンガインターナショナルの山内公史社長。「アーチ」「アーチヘリテイジ」「ジュイエ」などメンズ・レディスセレクトショップ5店を運営し、大通地区で気を吐く専門店だ。
中でもアーチは「ケネスフィールド」「フランクリーダー」といった上質国内外ブランドで40代の熱烈な固定ファンを得て、新たに20代などの取り込みを強めている。
好奇心はあっても、高単価商品をただ提示するだけでは、離れてしまう。購買につなげるにはスタッフの話術や説得力が大前提。同店ではスタッフがブランドを買い付け、デザイナーとの関係を密にする。作り手と客との距離を近づけるとともに、「このスタッフから買いたい」へつなげる。
通販は行わず、新店開発が将来を見据えた布石。2年前に「アナトミカ札幌」を開き、今年はレディスビンテージ・インポートウエア業態の「ジャンル」、アーチの2階も新設して欧州メンズ古着を集めた。特にレディス新店は「ゆくゆくは必要とされる店と想定」して立ち上げた。洋服へのニーズが多種多様に分かれるなか、メンズ・レディスともにおしゃれへの刺激を続け、新客の掘り起こしに注力する。
「『着るに値する服が分からない』という大人女性が増える中で、改めて顧客のニーズを吸い取る店の開発に挑んでいる」とはエン(太田能宏社長)の西口実加子統括ディレクター。同社は札幌、旭川、釧路に高感度なセレクトショップ「ヌエ」など直営店のほか、FCなど14店を運営する。
客の共感を得る
今年9月に大通の新商業施設ル・トロワに「アジュテベルペルシェ」を出店、旭川に新業態「サジ」を開発した。サジは「シーン提案と接客で売る」という新コンセプト店。40代以上の働く女性もしくは専業主婦に向け、素材が良く、着心地の良いシンプルスタイルや生活に沿ったオケージョン対応アイテムを、スタッフが選んで提案する。多くの女性が洋服以外への関心を強める傾向だが、逆に、目の肥えた感度の高い女性客の悩みは「着る服が見つからない」こと。こういった悩みを解消し、少なくなっている服への関心と購買動機をしっかり取り込み、彼女らの共感を得る。
「今後おしゃれな人は顔なじみの店で購入する傾向がさらに強まる」と西口ディレクター。サジは札幌でもニーズがあるとみている。今は来春に向けて核ブランドを集めている最中。ブランドに頼りつつも、「最終的に客のためになる洋服提案が大切になる」と見る。
全国的にヤングブランドが苦戦する中で、ヤングレディスブランド・ショップ店舗運営のエリオグループ(石田勇介社長)は、売り上げを伸ばして注目される。直営店は持たないものの、販売代行は約30店。「販売代行でも商業施設の集客に頼らず、待たずに、自らが攻める姿勢が非常に重要」と石田社長は強調する。
同社は「サッポロバールズクラブ」を運営して、スタッフをモデル化して、道内に女性ファンを構築している。厳しいヤングレディス市場で、ファッションへの憧れ、ステータスを引き出す知恵と工夫を凝らす。
繊研 2015/11/12 日付 19354 号 1 面