「若者の○○離れ」と表現されるものの一つに「ブランド離れ」があげられます。
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「憧れ」は2割
ラボでの過去調査でも、若者の好きなファッションブランドは「特になし」が最も多く、ファッションはブランドよりもテイストを重視する傾向があることがわかっています。
また、1カ月あたりのファッションに使うお金についても、5000~1万円前後が最多で、ファストファッションブランドを活用し、平均2~3のファッションテイストを遊びに行く人や場所に合わせて使い分けています。
しかしこの1年間で、若者たちがハイブランドアイテムを楽しむ姿を見かける機会が増えました。トレンドアイテムとしても「ディーゼル」や「UGG」などが挙げられ、彼らから具体的なブランドが出てくることが増え、ファッションの楽しみ方の変化の兆しを感じています。
では、実際に大学生や社会人の20~26歳の若者は、ハイブランド消費にどのような価値観を持っているのでしょうか。423人を対象にウェブ調査を実施したところ、海外の高級ブランド、いわゆるハイブランドのファッションに「関心がある」と答えたのは19.1%。「ややある」という人を合わせても52.7%と、半数程度にとどまりました。「憧れがある」「将来身につけたり、購入できるようになりたい」と思う人は2割程度で、ハイブランドは皆が憧れるものではなくなっていることがうかがえる結果となりました。
ポップアップで
しかし、「ハイブランドとの接点」について聞くと、およそ7割が何かしらの形で接点を持ち、最も多いのはSNS上での情報接触でした。
インタビューでは「ティックトックやインスタグラムで、ハイブランドのまとめ投稿(例:財布など)を目にする」「Kポップのアイドルがハイブランドを着ているのを見ると、憧れるし、かっこいいと思う」という声が聞かれました。
ウェブ調査では、学生と社会人で比較すると、現役の大学生の方が早い段階でハイブランドのファッションアイテムデビューをしている傾向もみられ、ハイブランドとの接触が若年化しているという結果になりました。
ここから、ハイブランドは誰もが憧れるものではなくなっている一方で、情報接点は増えていることからより身近になっており、購入検討の可能性はあることが考えられます。
近年増えているハイブランドが開催するポップアップイベントも、ハイブランドを身近にしている要因の一つです。例えばティファニーやフェンディなどが展開した期間限定カフェや、今年は『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ』展がSNSで話題となり、普段そのブランドのアイテムを使っていない若者も、「体験」を通してブランドの世界観を楽しんでいる様子が見られました。
インタビューでも「展示を通してブランドのイメージが伝わってきて、自分の中での価値が変わった」「グッチのポップアップに行って、世界観が独特で良いなと思った」などのポジティブな声が聞かれました。
SNSでの写真や動画を介したビジュアルコミュニケーションを重視している若者にとって、ブランドのアイテムが自身の普段SNSで表現している世界観とがマッチしていることが非常に重要です。このようなイベントなどの体験を通して「世界観のすり合わせ」をすることで、ハイブランドとの心理的距離が近づき、アイテムを手に取るきっかけにもつながっているようです。
(繊研新聞本紙23年11月8日付)