【提言】震災から始まった〝スペンドシフト〟

2015/03/11 05:16 更新


地方経済に希望をつなぐ

 東日本大震災を契機に国内で〝サード・ウェーブ〟(第3の波)と言われる、新しい価値観に基づいた物作りや、消費動向が広がりつつある。「何に対して価値を見いだして支払うのか」の基準が大きく変化する〝スペンドシフト〟といわれる現象だ。消費動機のキーワードは「安心・安全、親切な、人とのつながり、社会的貢献」である。

 50年代以降の日本経済の高度成長期を背景に、テレビ、洗濯機、冷蔵庫の耐久消費財が〝三種の神器〟として喧伝(けんでん)された時代を〝第1の波〟だとすれば、より多くの商品を手に入れることが豊かさの象徴だった消費動向が〝第2の波〟と言える。

 そして現在、大量生産や大量消費を見直そうとする動きが震災を機に顕在化している。少量であっても本当に良いものを作りたいという供給側の考え方と、これまでの量産型の衣食住の消費スタイルを見直し、地球環境や安心・安全な物を身につけたいと願う消費者の意識変化が融合し、〝第3の波〟を生み出している。

 モノに付随するストーリー性は〝プラスアルファの価値〟として評価される。作り手の思い入れや、価値観を投影した商品に対して共感する消費者が、直接的につながることが可能な社会基盤がある。

 EC(電子商取引)を通じて、作り手と消費者との物理的距離が縮まり、個人が起業するためのツールが増えている。気軽に単品アイテムからブランドデビューするケースが、今後、さらに増えてくるだろう。そして、地域性を生かした独自の物作りの担い手の多くは地方都市から発信される。

 一方、東日本大震災からの復興を「新しい国づくりの契機にする」として、有識者らでつくる政策発信組織、日本創成会議(座長=増田寛也前岩手県知事・元総務相)が発表した「増田レポート」が、人口減少に伴う〝市町村消滅〟を予測し、当該地域を中心に衝撃を与えている。

 同会議の人口減少問題検討分科会によれば、2040年には若年女性の流出により全国で896の市区町村の自治体が人口減少による消滅が危ぶまれる「消滅可能性都市」になると指摘。これに対応する施策として「選択と集中」による「地域拠点都市構想」を打ち出している。

 今、地域経済の持続発展の方向性を示す新しいビジョンが求められている。それは大規模資本の投入や、拠点都市への集中化ではなく、各地域の特性を生かした分散型の社会システムを生かした産業と雇用の創出ではないだろうか。その意味において、被災地発ブランドによる地方創生の芽吹きは、日本の地方経済の希望につながる。



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