「偽りのない完全なオーガニックの物作りを追求する」というのは、ウガンダ産オーガニックコットンを使った製品「真面綿」(まじめん)を作るスマイリーアース(大阪府泉佐野市)。自然環境への負荷を極限まで抑えた生産技術と、資源を無駄にしない循環型の仕組みを作り上げた。
(小堀真嗣)
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◆水のみで精練
オーガニックコットンでも「完全に環境配慮の物作りができない現状があった」と話すのは、奥龍将社長。通常、綿を使って生地や製品にする場合は吸水性を持たせるため、繊維に含まれる油分やペクチンといった物質を化学薬剤を使って取り除く。この精練の作業は、サイジングによって綿糸に付着した糊(のり)を落とすもので、欠かせない工程だ。
一方、奥社長の父で現在は常務兼工場長の奥竜一氏が、水だけで精練する方法「自浄清綿法」を試行錯誤の末に見つけ出した。「ある環境下で、綿からにじみ出た有機成分が水と反応し、油分やペクチンを落とす」という。この方法は昨年、特許技術として登録済み。
さらに、同社はサイジングをせずに通常よりも低速で撚糸、製織することで良質なタオルを作る。このため、処理水は化学薬剤や糊で汚染されない。
化学薬剤を製品1キロ当たり1グラム使う(従来は400~500グラム)が、これは洗いの工程で使う無添加せっけんを作るための水酸化ナトリウム。せっけんはウガンダ産のシアバターを使った物で生分解性は高い。処理水に含まれるせっけんカスは微生物の餌になるため自然浄化され、「メダカも生きられる環境」を実現した。
◆ウガンダ政府も注目
生産工程で使う天然資源は自ら調達する。精練および洗いの工程で使う水は、工場の下を流れる地下水。化学薬剤不使用で、せっけんは微量のため、すすぎが不要になり製品1キロ当たりの水の使用量は従来の4分の1となる50リットルまで減った。精練と乾燥工程に必要なエネルギーは、保有する里山の間伐材を燃やした熱エネルギーで全てまかなっている。わたくず、糸くずも一緒に燃やす。灰は自社の綿花栽培に虫除けとして活用している。
同社の物作りには、ウガンダ政府も注目している。化学薬剤と、処理水を浄化するコストがかからない。生産性は低いが、ウガンダの人件費も低く、「量産品と勝負できるコスト競争力がある」と奥社長。自然環境への負担を軽減するだけでなく、「労働者の安心、安全も確保できる」という。
◆奥社長の話
オーガニックな綿製品がその言葉の通り信用できる安心、安全を100%提供できているかというとそうではない現実もある。真面綿はオーガニックという言葉を使って信用を勝ち取るのではなく、生産工程や資源循環の仕組みを全てオープンにし、消費者との信頼関係を築きたい。
消費者を対象に、育てた綿花を使った物作り体験など、私たちの物作りに触れることができるコトの提供に力を入れ、真面綿のファンを作っていきたい。
主な対象は新生児の市場。生まれて間もない赤ちゃんにとっての安心・安全を任せられるブランドにしたい。研究開発費をかけてきたため、現状は真面綿だけで経営は成り立っていないが、大きな市場をつかむために生産能力の増強を先行させず、着実に市場を育てる。
ウガンダの綿農家とともに、持続可能な社会の構築を目指すため、元箱根駅伝ランナーという持ち前のスタミナを生かしていきたい。