ファッション業界で近年活発化している社会貢献活動だが、大企業が行うイメージが強く、個人店には難しいと思われがち。しかし、社会貢献とは、社会の利益に資する行いのことで、企業や活動の規模の大小は関係ない。最初から社会に資することを目的として行う直接的なものもあれば、特定の事業や行為が結果的に社会貢献につながる間接的なものもある。新型コロナウイルスの感染拡大によって社会全体が大変な今、地域に根を張る個店だからこそ、目が届き、取り組める社会貢献活動もある。
「レフ.」(広島市)
中国地方の光るヒト・モノを発信
広島市中区袋町のセレクトショップ「レフ.」などを運営するエヌ(広島市、中本健吾代表)は、新型コロナウイルスの感染が拡大した今春以降、中国地方のキラリと光る人や物の発掘・発信に力を入れている。地元のアーティストや名産物とタッグを組み、協業商品を販売することで、自らが収益を得るのはもちろん、コロナの影響で売り上げが減少している取り組み先の仕事を創出し、ウィンウィンの仕組みを構築している。
様々な商品を販売する起点となっているのが、20年4月から広島FMの番組内で放送を開始した新コーナー「さとうもかのシャケ・チョコ・レディオ」だ。岡山県出身のシンガーソングライターのさとうもかさんを支援する目的で始めた取り組みで、同コーナーとの協業品として様々な商品を販売してきた。
第1弾は、県内の縫製工場で生産した綿製マスク。4月中旬に視聴者プレゼントとして始めたものだが、販売を希望する声が多く、5月からレフ.のオンラインストアでも販売するようになった。コロナで外出自粛が強まるなか、「消費の優先順位が変わり、ファッションが最優先ではない」と感じて目を付けたのが〝食〟だった。第2弾として5月上旬に販売したのは、岡山県倉敷市児島にある松家製麺のうどんセット(1箱4食2160円)。7月末までに約900箱を販売した。
以降は児島製のTシャツ(5500円)やエコバッグ(3850円)のほか、7月中旬からは広島市の歴史あるお好み焼き店「もり」の冷凍お好み焼き(1箱2枚入り2200円)の販売も始めた。既に300箱近くが売れているという。
食の販売は、ファッションの購買を促進する効果ももたらした。協業商品はオンラインストアで販売したものの、店舗での支払い・受け取りも可能だったため、来店した際に服のセット買いも目立ったという。今後は岡山県の全粒粉、島根県太田市の塩を使ったスコーン、広島県廿日市市の吉和地域で栽培されているルバーブを使ったジャムなどの販売も予定している。
これまで、東京や海外などをせわしなく行き来する中本代表だったが、「コロナによって移動が制限され、広島での滞在時間が増えたおかげで、地元の宝にたくさん気づくことができた。足元を見つめ直すいい機会になっている」という。コロナで地元が衰退しつつある今だからこそ、「日の目が当たらずに眠っている才能のある人や優れた物を、ファッション企業としてのクリエイティブ力を生かして〝売れるデザイン〟に昇華させ、世の中に広く発信していくことが大事。それを実行するためにも実店舗を持っていることは強み」だと感じている。
「エウレカファクトリーハイツ」(岐阜市)
メイド・イン・岐阜のマスク
メンズ・レディスセレクトショップ「エウレカファクトリーハイツ」を運営するEFH(岐阜市、小林徹代表)は5月、ファッションユーチューバーの髙島涼さんが手掛けるブランド「リョウ・タカシマ」の別注マスクを販売し、売り上げから同社が得た利益全額を岐阜市新型コロナウイルス医療従事者サポート寄附金に納付した。医療従事者の支援だけでなく、メイド・イン・岐阜のマスクを販売することで、コロナ禍で仕事が減少した工場を助ける狙いもあった。
リョウ・タカシマが今春に販売したマスクが岐阜製と知り、デザイン性も高かったため、別注を依頼した。綿100%製で洗濯が可能なほか、サイズ調節ができたり、抗菌防臭・形態安定加工も施されていて実用性・機能性にも優れたものだった。5月下旬から店頭とオンラインストアで販売を開始し、6月末までに計309枚を売り切り、15万2955円を寄付した。最初の100枚はオンラインで即完売したため、急きょ追加発注したという。
20代後半から40代半ばの同店の顧客や20代前半のリョウ・タカシマのファンだけでなく、街の情報サイトなどにも掲載されたことで「普段は接点のない方々まで購入してくださった」という通り、取り組みに賛同した年配客の購入もあったという。
09年に同店を立ち上げ、10年以上が経過し、近年は「店や会社としての社会性も意識するようになった」という。緊急事態宣言下はアポイント制で営業を続けたものの、「ファッション産業や個人店が世の中に対してどんな貢献ができるのか、その存在意義を考えさせられるなか、無力感を抱くこともあった」。
そうした思いのなか、地元の工場や医療従事者を応援するべく、別注マスクの販売を決めた。「約15万円というわずかな寄付金額ではあるが、スモールカンパニーでもやれることはある。当社のような試みをまねしてくれるファッション個店が増えたらうれしい」という。
今後も「社会貢献的な取り組みを継続したい」とする一方で、「ビジネスとの両立」に難しさも感じている。今回のマスク販売も、同店は無利益かつ、「発送作業などで従業員に負担を与えてしまった」と省みる。「社会貢献とビジネスの最適なバランスを追求したい」考えだ。
(繊研新聞本紙20年8月13日)