【有力専門店に聞く】秋冬の仕入れ コロナ禍で品揃えへの変化は?㊦

2020/10/12 06:28 更新


 メンズの個店では展示会の時期(3月)とコロナウイルスの感染拡大が重なったのに加え、消費マインドの冷え込みも予想され、今秋冬の仕入れを抑えるところが目立った。コロナ禍を機に、在庫の適正化や店舗運営の在り方を見直す店もある。それでも常連客を中心に健闘するショップではベーシック回帰の流れを受け、スウェットシャツなど普遍的なアイテムを打ち出す。コーディネートではボトムを軸に提案するなど各店とも通常通りのスタンスを心掛ける。スタイリングのアクセントとして足元は革靴で新鮮味を出す。

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◇3シーズン着られる トレンドとは逆の革靴も

トフ(東京・五本木)

 東京都目黒区の五本木交差点近くにあるメンズセレクトショップ「トフ」は、秋冬物の立ち上がりが好調で、新型コロナウイルス禍ながらも売り上げを伸ばしている。高単価なニットトップの調子が良く、8月の売り上げは前年同月の2倍だった。購入しているのは顧客が中心だが、緊急事態宣言下にスタートしたインスタグラムやユーチューブでの動画による商品説明などが実り、新規客もつかんでおいる。客数・客単価ともに伸びている。

 秋冬物は7月中旬から徐々に店頭投入を始め、9月には完全に切り替わった。「普遍的で質の高い商品を求めるお客様が多い印象」という。売れ行きが良かったブランドは、「シオタ」「コモリ」「オーラリー」など。ジーンズやシャツなど数日で完売したものもあった。

 コートなどのアウターの売れ行きは例年に比べてやや鈍いが、カシミヤを中心とした単価の高いニット類が売り上げを補っている。ニットは、「ザ・クラシック」「ヘリル」が特に好調だった。

 秋冬物として仕入れたニット類がほぼ売れてしまったため、今後は寒くなったらすぐに着用できるアウターや着回しやすいシャツ、ボトム、シーズンごとに「お薦めの1足」として仕入れているシューズの提案を強化する。

 今秋冬のアウターは、昨年の暖冬も踏まえ、コットンベースの3シーズン着用できるものを推す。オーラリーのトレンチコートのディテールを取りれたロングコート(8万8000円)やコモリのダブルブレストのロングコート(12万円)などがある。

アウターは3シーズン着られるコットンベースのコートがお薦め

 シューズは、「ラッセルモカシン」のレザーチャッカブーツ(6万2000円)がイチ押しだ。品のある革靴が流行しているなか、あえてトレンドとは真逆の新鮮味のある革靴を薦める。茶色一色のみ揃えている。

「ラッセルモカシン」のチャッカブーツは、防水性が高く、通気性に優れたレザーを使用。米国製

◇スタンスは崩さない 良い物作りと目利き重視

FFC(大阪・南船場)

 大阪・南船場の「FFC」(フリーダム・フロム・コモンセンス)は、他店にないセレクト力を強みにするメンズセレクトショップ。緊急事態宣言中は一時休業や時短営業し、「4月はとくに厳しかった」(青山利之代表)が、「コロナ禍であっても店としてなるべくいつも通りの発信を心がける」ことで、売れ行きが戻りつつある。20~21年秋冬も引き続き、良い物作りをしているブランドで、新鮮な提案を重視する。

 秋冬物でとくに推すのが、「ソウモ」のデッドストックのタスマニアウールを使ったメルトンのコートだ。第2次世界大戦期のモーターサイクルコートをベースに、クリーンにまとめたデザインで、オーバーサイズ気味のシルエットも楽しめる。全国でも取扱店舗が少ないブランドだが、同コートで表面にシャギーのかかった黒を別注で提案している。別注品が9万2000円。

「ソウモ」のメルトンコートなどによるスタイリング。良いモノをシンプルにまとめる

 「ヤシキ」の氷柱をイメージした編地のニット(2万6000円)や「エムエフペン」のドレープ感が楽しめる薄手ウールのパンツ(2万8000円)と組み合わせて、良いモノをシンプルに着こなすスタイル提案を継続する。

 ブランド別では「マーカウェア」も重視。素材からこだわった物作りをし、トレーサビリティー(履歴管理)も実現しているのが特徴で、「店としても良い物作りを若い人にももっと伝えたい」と話す。オーガニックウール60番手双糸のフラノシャツ(4万6000円)など。

「マーカウェア」のオーガニックウールフランネルシャツ

 6月には6ブランドの秋冬物新作受注会を実施した。単独ブランドでは受注会をしたことがあったが、独自に6ブランドを揃えたのは初めてで、「顧客の反応は良かった」。もっと大きな面積で店を表現するため、出店立地を探しているが、「コロナで立地の良さが有利に働くことは減った。自店を目がけて来てもらえる魅力作りがますます大事になる」と考える。

◇ボトムから仕掛け 大人のラギッドスタイル

K2アパートメント(茨城県つくば市)

 茨城県つくば市郊外のメンズカジュアルのセレクトショップ「K2アパートメント」は今秋冬の仕入れ量は抑えつつも、別注企画の投入や毎月のイベント開催など集客策に力を入れる。新型コロナウイルスの感染が拡大してきた3月時点で「秋冬物の6~7割発注は済んでいた。元々、期近・期中の発注で肉付けしていく手法なので、大きな影響はなかった」(久保田裕一代表)という。夏から秋の端境期には時計やサングラス、小型バッグなどの雑貨でつないだ。単品では春夏に続き、ムーンスターの機能的なカジュアルシューズ「エイトテンス」が売れている。

 秋の立ち上がりはパンツから提案する。「メンズのスタイリングは種類の少ないボトムから仕掛けるのが鉄則。これは例年通りで今春と変わらない」と強調する。今春はホワイトデニムを仕掛けたが、今秋はチノパンを打ち出す。9月中旬からメンズパンツ専門ブランド「バーンストーマー」の定番チノパンの期間限定コーナーを設ける。その後、濃色のジーンズを提案する。

 足元にはトラッドテイストで茶系のコインローファーやチロリアンシューズなどの革靴を合わせ、ラギッドな大人のカジュアルスタイルを提案する。チノパンとジーンズという王道のスタイルなので何でも合わせやすくなる。トップは、立ち上がりでTシャツの上からチェック柄の羽織り物やコーチジャケット、スウェットシャツなどの組み合わせ。

チノパンに革靴、スウェットシャツの組み合わせ

 別注企画では立ち上がりに帽子ブランド「ハイヤー」と同店9周年を記念し、野球好きの久保田代表の思いも込めた「球」のロゴを入れたデニムキャップをはじめ、キャスケットを販売している。また、オリジナル企画では、熊本県のセレクトショップ「オレンジカウンティ」と共同で販売する90年代カルチャーのグラフィックをプリントしたビッグシルエットのTシャツも仕掛ける。

帽子ブランド「ハイヤー」に別注したデニムキャップやキャスケット

◇ベーシックに回帰 定番品のロマン伝える

ザ・ウォーリアーズ(茨城県つくば市)

 「ザ・ウォーリアーズ」(運営ステュードベーカーインターナショナル)は茨城県つくば市と土浦市の中間地点に構える郊外立地のアメカジショップ。「コロナ禍で仕入れや店舗運営を見直す良い機会になった」と佐藤誠司代表。実際、秋冬の仕入れは絞り込んだ。「有力メーカーの売れるもの頼りでなく、自店のコンセプトに合った売りたいものを仕入れなければならない。その上で商品の〝ロマン〟まで語れないと顧客まで伝わらない」と強調する。

 「コロナ禍で不透明な秋冬をどうするか」は春の段階からの課題だったという。ただ、「この道25年以上の経験から、リーマンショック、東日本大震災などの後の不況ではベーシック回帰の流れが強まる」とみている。そのため、今秋冬はアメカジの普遍的なアイテムを提案する。具体的には、ダンガリーのシャツに無地のスウェットシャツとジーンズを合わせる。その上からシンプルなミリタリーブルゾンを重ねる。革ジャンでの新しい提案としては、今までのフライトジャケットやライダーズジャケットではなく、1930年代の襟付きのシンプルなスポーツジャケットを薦める。

ミリタリーブルゾンにスウェットシャツ、ジーンズという定番アメカジスタイル

 店頭での接客ではアイテムの起源や背景、細部へのこだわりはもちろん、一品一品のロマンを語ることが欠かせない。例えば、「今時は2次流通や古着でも同じアイテムは買えるかもしれないが、新品の革ジャンに最初のしわが入れられるのは購入者だけの特権。全てのしわや傷に思い出が刻まれる」と言った熱量のある接客がリピーターづくりには大事になっている。また、変化が激しく1シーズンで使い捨てされるようなトレンドものではく、長く愛される定番商品のため、在庫を持ち越したとしても腐ることはない。来春夏も定番アイテムを軸としたスタイリングの流れは続きそうだ。

レザーアウターではスポーツジャケットを提案

(繊研新聞本紙20年9月24日付)

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