【専門店】有力個店で活発化する新人採用 ニューフェイスに聞く〝なぜFB業界に?〟

2021/01/02 06:30 更新


 力のある個店専門店で新人の採用が活発化している。ファッションビジネス(FB)は、新型コロナウイルス禍以前から、暗い話題も少なくないため、専門店全体で見ると人材獲得に難しさはあるものの、客として見ても魅力を感じる店には、やる気のある若者が集い始めている。ここ数年のうちに個店に就職した新人販売員に、就職を決断した理由や将来の目標を聞いた。

【関連記事】【専門店】個店で増える予約制の導入 時間と空間を独占、丁寧な接客

「ルーム」(大阪) 杉本翔さん、中井達也さん

美容師などの経験生かしたい

 セレクトショップ「ルーム」「ヌーク」を大阪や京都で計4店展開する343(大阪市、南裕介代表)は、大阪の「ルーム・メンズ」でこの間、2人の正社員を採用した。募集はホームページやインスタグラムで行い、履歴書やスナップ写真をもとに選考・面接している。「個店は視点が偏ってしまう場合がある。顧客だった人がスタッフになることも少なくなく、視野が狭く深くなり過ぎるのは良くない」とし、最近は第三者を交えて面接し、異なる分野にも詳しい人材の採用を意識している。

杉本さん(左)と中井さん

 1年少しのアルバイト経験を経て19年に正社員になった杉本翔さん(22)、中井達也さん(25)は、そんな考えに沿った新人だ。杉本さんは美容専門学校生の頃から、「美容師としても生かせることを学びたい」とアルバイト。「服屋によっては来店頻度が美容室より高く、客層が幅広いところもある。提案するもの、求められるものも多い」と魅力を感じ、卒業後もルームで働くことにした。普段からヘアスタイルを含めて自身を積極的にイメージチェンジすることを心掛け、顧客にも杉本さんならではのアドバイスを光らせている。今後の目標は東京にルームとして進出することで、「店とともにさらに成長を目指したい」と笑顔を見せる。

大阪・中崎町周辺にある「ルーム・メンズ」

 中井さんは専門学校で家具の製作やグラフィックを学び、「ウェブデザインのスキルを生かしたい」とルームで働いている。グラフィックに限らず、ECでもウェブの知識やスキルを発揮して同店のEC化率をアップさせた。「いろいろなチャンスを与えられてやりがいを感じている」状況で、今後については「いろいろな人と引き続き出会い、やりたいことを広げて実現していきたい」と話す。

南オーナー

「アイスリー」(千葉県柏市) 齋藤尊さん

一人の顧客から共感し社員に転身

 今年秋に10周年を迎えた千葉県柏市のメンズセレクトショップ「iii3(アイスリー)」を運営するリコラージュの田中庸介代表は、立ち上げ当初から「リアルな店頭での濃い接客を重視」しているため、販売スタッフは田中代表を含め4人の複数体制で臨んでいる。少し前に1人転職したため、昨年9月に新人を採用した。

「一人ひとりの顧客としっかり向き合う個店に魅力を感じた」と齋藤さん

 新人の齋藤尊さん(28)は警察官、大手セレクトショップのアウトレット店の販売員を経て入社した。4年前からアイスリーの顧客として市外から店に通い続け、同店のコンセプト「生まれたものには意味がある」はもちろん、田中代表の人柄や「人と人のつながりの強いファミリーのような店を作りたい」との思いに共感し、お世話になることを決意した。

リアルな店頭での体験を重視する「アイスリー」

 以前働いていた店舗は規模が大きく機械的な作業が多かったため、実際、一緒に働いてみて、「EC全盛で人との関係が希薄になりがちな社会で、一人ひとりの顧客としっかり向き合う個店の魅力を実感できた」。さらに、土日には齋藤さんよりも下の20代男性客で店頭がにぎわい、親しみを持ってもらえている。「転職して全く後悔はなく、毎日、店頭で接客することにかなりの充実感を味わっている」という。今後も「アイスリーらしさを学びながら、若い世代にもっとファッションの楽しさを知ってもらえるように努力したい」と意気込む。

 来年にはすぐ近くに別コンセプトの2店目をオープンする予定。新店に向けて新人2人を採用した。「これからは自店を育ててもらった街にファッションで恩返ししたい」と田中代表。共に歩む仲間たちとの挑戦は続く。

アイスリーの田中代表(左)と齋藤さん

「アマノジャク」(東京) 大杉燎さん

独立・開業へ最短距離を選ぶ

 「アマノジャク」は、廣川輝一さん、小山逸生さん、大津寿成さんの3人が18年8月に東京・北千住で開業したセレクトショップだ。今年9月には、東京・千駄木に2号店を開いた。創業メンバーおのおのに顧客が増えていくなか、仕事の質を高め、幅を広げるためにも、今秋に3人の新人を採用した。

 新人最年少の大杉燎さん(18)は高校3年生。北千住店が開業した直後から頻繁に通っていた客の一人だった。「将来は自分の店を開きたい」という夢をかなえるため、同店で働くことを決意した。現在はアルバイトとして仕事をしているが、来春から正社員になる。

「日本一の販売員になりたい」という大杉さん

 7歳年上の兄の影響から、「小学生の頃から服が好きだった」という。兄とともに様々な服屋で買い物をするなか、販売員に憧れを感じるようになり、「服を販売する仕事に就きたいと考えるようになった」。特にアマノジャクの「服に対する情熱がありながら、客に寄り添う接客に引かれた」ことが、就職を決める一因となった。ファッションについて語り合える同世代の友人が少ないなか、アマノジャクではファッションのことだけを長時間にわたって話せることにも魅力を感じたようだ。

9月に開業した千駄木店。メンズ・レディス双方を取り扱う

 同店としては、大杉さんに対してファッションビジネスの現状、厳しさも伝えはしたが、「本人の意志やビジョンが明確だったので、採用を決断した」(大津さん)という。仕事を始めて約3カ月ながら、大杉さんなりの接客アプローチで徐々に顧客を獲得しているという。「自分だからこそできる仕事の役割を見つけ、当店に貢献していきたい」とやる気は十分だ。

(繊研新聞本紙20年12月3日付)

関連キーワード専門店



この記事に関連する記事