品揃え店にとって、扱う商品は店の顔であり、他店との差別化の基本となる。アパレルメーカーも卸先に配慮して、同一商圏内でブランドがバッティングしない配慮をしてきた。しかしコロナ禍でEC利用が広がり、商圏を問わず服が買えるようになり、自店で扱う服と同じものが他で簡単に安く買える状況も珍しくなくなった。こうした状況の変化とともに、小規模店でもオリジナル商品に挑戦する姿が増え出した。
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機会あれば
エスカルゴサーカス(兵庫県西宮市)はかつて過去に別注品を作ったことがあるが、ロットのミニマムなど条件的に難しく、現在は仕入れだけだ。機会があればオリジナル製造したいと考えてはいるが、「自分はパターンが引けない。また少量でも引き受けてくれる縫製工場を探さないといけないなどクリアするべきことが多くなかなか踏み出せない」(冨永小夜オーナー)という。
マスターリング(奈良県天理市)も同様に、生産ロットの条件面でオリジナルに踏み出せないとしている。
グラッピーノ(島根県出雲市)も、ロットや販売価格の条件が合わず、積極的には取り組んでいない。日本に代理店がなく輸出もほとんどしていないイタリアのメーカーとの取引で差別化を進めている。
前述の店はすべて機会や条件があればオリジナルや別注を行いたいという。クレアトールオキ(大阪市)も「オリジナルを作るメリットと在庫を抱えるデメリットを比べた時、デメリットのリスクがどうしても上回る」(沖啓太郎社長)と二の足を踏む。ただし、「メリットがデメリットを上回ると判断できれば」と考える。
適材適所で
多くがハードルの高さで諦めるオリジナルを手掛ける動機は何だろう。リカリコ(京都市)は、「メーカーに欲しい商品がない」とニットを企画中だ。ロット面での不安はあるが「自分たちの売りたい商品を自分たちが売りやすい価格で提案できることに魅力を感じている」(中村有希社長)。
イシカワラボ(静岡県三島市)は、商品の差別化、値入れ率の確保を求めて海外からの仕入れをしていたが、コロナ禍で海外に行けず、フリルショートパーカブルゾン(1万2000円)、フレアカットソー(8900円)などを作り始めた。この1年でECを大きく伸ばしたこともあり「欲しい商品が適材適所で手に入る。ECでの縦売れができれば消化率100%の商売が実現できる。ショップの独自性を表現できて顧客にも喜ばれる」(石川英章社長)とメリットを語る。同店は小さいサイズやオリジナルカラーなどアパレル別注にも意欲的に取り組んでいる。
うめや(兵庫県姫路市)は、インナー(5900~8900円)、ワンピース(1万6000~2万2000円)などを製造販売している。当初は在庫の見切り、不良在庫発生のリスクから大してメリットがなく「多店舗展開でなければ意味がないと悟った」(梅田繁専務)。だが、顧客の求めが仕入れ先にない商材、シンプルなデザイン、長く販売できるものに目先を変えると、「消化に時間はかかるが、プロパーで確実に利益を生むものとなった」。ECやSNSを活用すれば、小規模店でもオリジナル商材の拡販が可能と感じ始めている。
成長に期待
職人の少量生産でオリジナルを手掛けるヴェリスタ(大阪市)は、差別化や価格決定権以外の目的も持つ。「スタッフが生産者とやりとりをすることで、人生のストーリーが作れ、個人としての生きる力を積み上げられる」(鵜飼英隆社長)と、スタッフが成長する機会と期待を含む。当初はブランドとの共生感を創出するため周年記念で始めた別注も、「ブランドの製作工程に触れることでで深くブランドの内面を知る経験になる」と販売者が生産者と触れることの大切さを述べている。
ライクライフなどを運営するビルドアンプグループ(高知市)は、GOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)認証のオーガニックコットンのTシャツ(2990円)などを生産販売している。ブランド名は「ピーススケッチ」。北村英彦社長は「すべての人が未来を思い描くときに無意識のうちにピースであってほしい」と、地方の小規模企業ながらGOTS認証を取得して商品開発した。地球環境を守るGOTSの取り組みが広く知られ、インドの綿花農家や縫製工場で働く人に貢献するためにも他の小売店に卸し「各店でオリジナルのプリントを施して自社のオリジナル商品として販売してもらえるとうれしい」と話す。
(繊研新聞本紙20年10月22日付)