ニューヨークのジャパンソサエティーのギャラリーで「東西南北:ブルックリン美術館 日本美術の至宝」展が開催されている。ブルックリン美術館は、アメリカ国内最上級の日本美術コレクションをもつ。現在、アジアとイスラム部門が改装中のため、ジャパンソサエティーが一部を借り出して展覧会をやっているというわけだ。
その中で、ジャパンソサエティーが「ひときわ目を引くコレクション。他では見られない」と高い評価をしているのは、アイヌ民族の装束や道具のコレクションだ。
展示されているのは特に状態のいい20点だが、ジャパンソサエティーのギャラリー館長の手塚美和子さんによると、ブルックリン美術館には1100点以上のアイヌの文化資材があって、これは北米最大規模のコレクションという。しかも、買い付けられたのは100年以上前だ。何故、ブルックリン美術館が100年以上も前にアイヌの文化資材を買い集めたのか。
にれの木の樹皮でつくられた女性用の晴れ着
綿に刺しゅうとアップリケが施された男性用の晴れ着
それは、ブルックリン美術館の初期のキュレーターのスチュアート・キューリンのストーリーにさかのぼる。彼は1909年に初めて日本を訪れ、1912年に再来日した。
民俗学が専門だったキューリンは、失われていく文化に興味をもち、いいものを先行して集めようとした。東京、京都、東北を見て、さらにアイヌも見に行き、アイヌの人たちから直接作品を購入した。ファッション、食器、玩具など、生活に密着したものに特に興味をもったキュレーターでもあったという。
刺しゅうのモチーフはジオメトリックなメイン
ネックライン、袖口、裾に刺しゅうが集中しているのは、外に向かって開いているところから毒気が入らないようにからだを守る、という意図がある
手塚さんは、「彼は宗教儀式で使われてその後使われなくなったものを購入していました。まだ使っているものは、アイヌの人にレプリカをつくってもらってそれを購入した善意のキュレーターなんです」と話す。アイヌの人々から直接購入されて、国外で保存されている例は他にないという。
展示のハイライトはローブだ。にれの木の皮をはいで、そこからとれる繊維を織ってつくった布を使っている。刺しゅうの糸は口で噛んで柔らかくして使ったそうだ。ネックレスは大きなビーズやコインをつなげたもので、色合いが美しい。キューリンがまとめた分厚い「日本出張レポート」も展示されている。
使われているコインは中国製で、中国と交易があったことが伺われる
大きなビーズと美しい色が印象的なネックレス
「自然と共生していた」と言えるのかどうか定かではないが、少なくとも今の我々のライフスタイルと比べたら、そこには自然や不便さと折り合いをつけながらつくられた服やアクセサリーが存在したといえるだろう。自然と共存しながら手作りすること自体に共感する人は、多いと思う。会期は6月8日まで。
リポートの中扉に描かれた刺しゅうのモチーフに、キューリンのアイヌに対する愛着が感じられる
89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ)