MoMA歴代2つめのファッション展覧会(杉本佳子)

2017/09/28 17:45 更新


 ニューヨーク近代美術館(MoMA)で、「アイテムズ:ファッションはモダンか?」展が10月1日から来年1月28日まで開催される。展示されるのは、20世紀と21世紀の歴史と社会に強いインパクトを与えた111アイテムだ。MoMAがファッション関連の展覧会を前回行ったのは1944年で、当時のタイトル「服はモダンか?」に引っ掛けて今回のタイトルとなった。

 MoMAは今回を含めても、今までファッション関連の展覧会をたったの2回しかやっていないことになる。ニューヨークには、メトロポリタン美術館のコスチュームインスティチュートやFIT(ファッション工科大学)の美術館があるから、ファッションにあまり力を入れてこなかったのかなと思いきや、この展覧会はなかなか見ごたえがある。最低でも2時間は予定しておくことをお勧めする。


 展示は、「アランセーター」「バンダナ」「バイカージャケット」「ビキニ」「カフタン」などアイテムごとに1点、一部は数点(例えば「ポロシャツ」はラコステ、フレッド・ペリー、ラルフローレンから計3点が採用された)を展示し、総点数は約350点に及ぶ。

 各アイテムごとに「これ!」という1点または数点を選び抜くのは大変な作業であり、長時間にわたる議論があったに違いない。そして、このテーマで展覧会自体を面白くてエキサイティングなものにするには、相当な工夫も必要だっただろう。

 例えば「フーディー」はチャンピオン、「フリース」はパタゴニア、「ヨガパンツ」はルル・レモンの製品がこのように展示されているが、すべての展示がこんな感じであったなら、来場者たちが「面白かった!」と言って会場を後にする可能性は低いに違いない。


 そこで、このテーマで面白い展覧会にするためにさまざまな工夫がされている。アイテム自体を見るよりも、その“工夫”に注意を払うほうが何倍もこの展覧会を楽しめると、私は思う。

 例えば、ブレトンシャツのコーナーには、プロトタイプのボーダーストライプのシャツとそのストライプの一部を崩したシャツが並べられている。来場者は、タッチパネルで好きなようにボーダーストライプを変化させることができる。ロンドンのファッションテクノロジー会社「アンメイド」の技術だ。

 実は、展示物の約1/3は、サステイナブルやバリアフリーなど、何か未来につながる要素を入れてつくりかえたアイテムになっている。


 例えば、「オックスフォードクロスボタンダウンシャツ」のコーナーでは、3点のシャツが展示されている。

 右側はブルックスブラザーズのシャツで、左側はイーコマース「マグナレディ」を2013年に立ち上げたマウラ・ホートンがデザインしたシャツだ。大学のフットボールコーチだった夫がパーキンソン病でシャツのボタンを留めることが困難になったとき、マウラが考案した磁石で簡単に着脱できるシャツなのである。


 動画の活用という点では、例えば「パナマハット」や「ネクタイ」をつくっているところ、「ヒジャブ」の巻き方をそれぞれ動画で見せている。

 展示物に加えて、写真で見せているものもある。「スリップドレス」はケイト・モス、グイネス・パルトロウ、コートニー・ラブなどのセレブがいつどんなオケージョンでどんなスリップドレスを着用したのかを紹介している。

 「バンダナ」は、ストリートギャングも含めてどんな人がどんな風にバンダナを着用したかを示している。「スポーツジャージー」は4点のジャージーと共に、ジャージーがランウェーで登場した時の写真をいくつか紹介している。


 しかし、最も面白いのは、1つ1つのアイテムの由来や歴史に関する記述だろう。

 例えば、ラコステのロゴがクロコダイルだった所以とか、トラックスーツを流行らせた初期の人物はブルース・リーだったとか、バケットハットが最初に市場に出回るようになったのは1934年とか、この展覧会はそういった「豆知識」の宝庫だ。

 1つ1つ読んでいったら3時間でも足りないかもしれないが、この展覧会を見ると、やはり今は「モノ」自体よりも「モノの裏にあるストーリー」が重要であり、人々の関心もそこにあるからこういう展示になったのだろうと実感する。

 さらに、この展覧会の面白いところは、「物議」や「議論」が活発に行われるに違いないと思われる点にある。「なんでこれが選ばれたんだろう」「自分ならもっと違うのを選ぶ」と思うネタがそこかしこにある。

 私は「バックパック」でプラダのバックパックが展示されているのを見て、「何故プラダ?」と思った。プレスプレビューでは、MoMAのシニアキュレーターのパオラ・アントネッリ氏の話を聴講する機会があり、質疑応答で、「何故プラダのバックパックを選んだのか?」と聞いてみた。彼女の答えは、「ナイロンと逆三角形のロゴで新しいハイファッションとしてのバックパックをつくったから」というもの。

 つまり、バックパックのあり方にインパクトを与えたからということのようだが、「最終的にジャンスポーツとプラダとどっちにしようか迷った」ことも明かしてくれた。質疑応答では、「何故ウエディングドレスがないのか?」「何故フォルチュニープリーツがないのか?」という質問も出たが、キュレーターたちはむしろ、そういう疑問や議論を歓迎し楽しんでいるかのようだった。

 この展覧会は、「自分だったら何を選んだか?」「ここに含まれるべきだったアイテムは他に何があるか?」と、自問自答あるいは同行者との議論を楽しめる展覧会でもあるのだ。


 最後に、この展覧会から出てくると、巨大な壁一面に自然環境や労働条件、資源などの面でアイテムがもたらしてきている影響を示すチャートが目に入る。

 例えば、リーバイス501は、2011年に水をより少なく使って生産する方法を採用してから今までに10億リットル以上の水を節約できた、などといったことだ。これからの「アイテムの在り方」へ問題提起をしている展覧会でもある。




89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ



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