女子世界と男子世界の変貌

2015/12/31 06:21 更新


《繊研教室  StudyRoom》新たなユニセックス市場

星川俊夫マーケティング・プロデューサー

繊研 2015/11/24 日付 19361 号 7 面

 ラグビーがワールドカップで日本が活躍したことで一躍人気上昇した。ラグビーの世界には「One for all,All for one」という「一人はみんなのために、みんなは勝利のために」を意味する言葉がある。海外ではあまり使われないというが、日本の特に学校のラグビー部ではよく使われる言葉だ。

 チームという組織や仲間のために、自分を犠牲にしても目的の達成を目指すという教育的な意味で使われる側面もあるが、人とのつながりの表現として日本人の共感性が高い側面もあるだろう。しかし、個人と仲間や組織との関係に対する感性・価値観は、若い世代で変化を見せている。


男女の関係の淡泊化

 個と他者・仲間との関係では〝個のライフスタイル〟を重視する意識が強くなっている。また人との関係の濃淡では、淡いを志向する意識・スタイルが強くなっている。その一つの象徴が恋愛。晩婚化・未婚率が拡大しているが、結婚に対する願望は否定的ではない。

 しかし、その前の恋愛関係において淡泊な世界になっているといえる。「友達以上、恋人未満」という表現が昔からあるが、今の若い世代では「ソフレ」(添い寝フレンド)といって、男女で添い寝をしてもセックスまでは進まないという、親しいが〝恋人未満〟の関係がある。

恋人が欲しいと思わない人の「欲しいと思わない理由」(複数回答)

 一般社団法人日本家族計画協会の調査では、実際にセックスへの無関心・拒否感が高まっているという。厚生労働省の「若者の意識調査」では、「他人と深い関係を持つのは面倒だと思う」が44・6%に対して「面倒だと思わない」は24・5%に過ぎない。また、内閣府の調査で「恋人が欲しくない」と思う20、30代にその理由を聞くと、「恋愛が面倒」とともに「自分の趣味に力を入れたい」の回答が高い。

 恋愛の対象よりも、個としてのライフスタイルを重視するという意識が恋愛から遠ざけるという側面をもっている。また男女の個々の関係だけでなく、男性と女性のおたがいのポジショニングも以前に比べて大きな変化を見せている。


趣味趣向の壁は無い

 女性作家・桐野夏生が今年「抱く女」という小説を上梓(じょうし)した。そこには男女のポジションの違いと、それに対する女性の意識とポジションを変えたいという意志が、1972年の吉祥寺を舞台に、当時の社会・文化、そして若い女性の姿を、女子大生を主人公として描かれている。桐野は51年の生まれで主人公と同年代。

 私小説に近い作品として、まさに当時の女子大生のマインドとスタイルがリアルだ。女性がまだまだ抑圧されていた時代で、その社会的地位を高めるための運動も起こり始め、その中で〝抱かれる女から抱く女へ″という言葉が使われるような社会であった。

 主人公はそのような活動に参加しているわけではないが、大学進学率が男子で25%超に対し、女子は4年制大学で5%、短大を含めても10%強という格差があった時代に、〝女子大生で吉祥寺の街を遊び歩き、アルバイトもする〟という、当時の日本の若者全体から見れば、先を行くライフスタイルだ。そのような女子が男友達の世界に足を踏み入れようとする生き方を目指す価値観・世界観が描かれ、またそこにある障壁も表現されている。

 そんな男女間の壁が高い社会でも、若い世代ではジーンズが男女共に身に着けられるようになっていくが、それはライフスタイル共有化の一端であり、ユニセックス市場でもあったといえるだろう。

 時が流れた現在でも、社会における男女の格差はまだまだ随所にあるのが事実。それに対し、企業では女性の管理職を増やす、家庭ではイクメンといわれるように男も家事・育児などを協業すべきことが声高に言われるが、なかなか進んでいない。

 しかし、趣味の世界では「○○女子」という表現が使われるように、女子が男子との壁を乗り越えて男の趣味世界に様々進出している。かつては女性が男性との壁を破り、ステージを上ることに障壁があったが、今の女子は男子との壁を容易に乗り越えることができるようになっている。

 それどころか男子が、かつては女子の世界といわれていた領域へ出向くようになっている。「弁当男子」「スイーツ男子」や「○○系男子」という言葉が使われてから日も経つが、近年は男子の美容に対する関心も高い。「コスメ男子」「美肌男子」といった表現も一般的で、先日も某テレビ局の男子アナウンサーが番組内で「僕も美容液や化粧水を使っています」と言っていた。実際、男性ターゲットの美容液や化粧水も商品化され、市場を拡大しつつある。

 今まで女性が男性の世界に進出することで形成されてきたユニセックスの市場も、これからは女性の世界へ男性が入ることで新たな市場が拡大されていくことだろう。

 ほしかわ・としお 早稲田大学卒。出版社で編集者を務め、その後マーケティング調査・企画会社の創業に参画。生活定性調査「生活カレンダー」を創設。01年「ワンダー・センス」創業、代表取締役。



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