現在、米国の半数以上の州で新型コロナウイルスの感染者数が急増し、ヨーロッパは米国からの入国を禁止している。9月の21年春夏ニューヨーク・ファッションウィークは3日間に短縮された。マーク・ジェイコブスとマイケル・コースは、すでに不参加を表明している。9月下旬にニューヨークで予定されていた婦人服の合同展も中止になった。
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合同展がデジタルに一本化された場合、やはり「デジタルでは触れない」問題が気になる。しかしフェイス・ポップコーン氏は、触覚テクノロジーが今後急速に広まるとみる。プラハのナショナルギャラリーは既に、目の不自由な人がバーチャルでアート作品に触れられるようにしている。触覚テクノロジーを使った手袋をして触るもので、同じことがファッションでもできるだろう。ポップコーン氏は、「研究が進み、より進化した例を3年後に見る。家にいて生地に触れるのは、技術自体と消費者のインターフェイスの両方が作られて市場に出てこないといけないから、5年以上先になるだろう。うまくいけば、もっと早まるかもしれない」と予測する。
デジタルでも質感が分わかるようになったら、買い付けはどうなるか。ポップコーン氏は、「じきに人間のバイヤーが買い付けに出かけていく時代でなくなる。消費者が何をいつ、どのサイズ、どの色を求めているか、AI(人工知能)が予測するようになる」と明言する。小売店はバイヤーの出張費より、買い付けのためのテクノロジーに予算を割くようになるのだ。一方で、氾濫(はんらん)するハイテクノロジーへの反動で、ローテクへの憧れはむしろ強まるだろう。ポップコーン氏は手作り、地元産、サステイナビリティー(持続可能性)、職人技にこだわった商品も、コラボレーションを通じて継続されるとみる。
ファッションショーはどうなるのか。コロナ感染が収まらない限り、来場者は地元のバイヤーとプレスに限られる。不透明な状況の中、型数を減らすこともあり、経費をかけてショーをする意味があるか疑問だ。DtoC(メーカー直販)の流れから消費者を巻き込んだシーナウ・バイナウが、再び注目される可能性もある。トゥモローコンサルタントのジュリー・ギルハート社長は、「その可能性は非常に高いし、うまくやればとても利益が出る。ブランドにとって顧客とつながり、コミュニテイーを築くことになる」と話す。
ソーシャルディスタンスの関係で、現状ではフィジカルのショーを再開できるかどうか判断できない。フィジカルのショーでは、その場にいた人でなければ感じることのできない空気感や服の持つパワーを感じることができる。それは、デジタルでは伝えられないファッションの重要な要素だ。しかし、今はデジタルの最新テクノロジーを駆使してブランドの世界を届けることで、ブランドを巡るコミュニティーの持続につなげるしかない。
「3.1フィリップ・リム」のウェン・ゾウCEO(最高経営責任者)は、「業界は今だけでなく、長期的解決策としてデジタルで見せることを受け入れないといけない。たぶん将来は、デジタルとフィジカルを融合した形になるだろう」と語る。そして、「ショーは型数の多少にかかわらず、コレクション創作の究極的な表現方法。イベントとしてやる人もいれば、親密な経験を提供する人もいる。ブランドはどのように観客とつながりを持つか、もっとクリエイティブに考えないといけない。ファッション業界は歴史的に、常に創造のチャレンジャーだったでしょう」と話す。
ポップコーン氏はいずれ、「VR(仮想現実)を活用し、希望するなら自分がショーに参加しているような体験ができ、触覚テクノロジーを通じて服を感じられるようになるショー」「アニメのモデルやアバターのモデルを使い、興味をそそるストーリー展開があるショー」が出てくるとみる。ギルハート氏は、「適切な人々がうまくやったら、とても面白いことになると思う。この業界でどんなクリエイティブなマインドが出てくるのかと思うと、わくわくする」とポジティブに考えている。
(おわり/繊研新聞本紙20年7月9日付)