《視点》鹿児島紡績所

2022/08/18 06:23 更新


 先日、日本の近代紡績発祥の地である鹿児島紡績所跡を訪れた。慶応3年(1867年)に完工したもので、「英国から輸入した蒸気機関と紡績機械を使って大量生産する、日本の産業革命の起点」という場所だ。紡績は当時の最先端産業であり、東京や大阪ではなく桜島を望む日本の南の海辺から始まったと思うと、個人的には感慨深いものがあった。

 ただ、現在その跡地はセブン‐イレブンの駐車場の一角に、石碑と簡単な説明書きがたたずむのみ。すぐ近くには紡績所の英国人技師住居として建築された技師館(通称・異人館)や、島津家の歴史などを紹介する尚古集成館があるものの、ここに足を運ぶ人は少ない。跡地周辺に工場の往時をしのばせるものがほとんど無いため、観光客が来ないのもわかるのだが、日本の近代産業がスタートした場所にしては寂しい気もする。

 日本の近現代史にとって繊維産業の果たしてきた役割は大きいものがあるが、それを認識している一般の人は決して多くはないだろう。産業観光などに興味を持つ人も増える昨今、業界でこうした繊維の歴史遺産をもっと有効活用するべきではないだろうか。

(騎)



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